初の著書『伝わるチカラ』(ダイヤモンド社)を上梓したTBSの井上貴博アナウンサー。実はアナウンサーになろうとは1ミリも思っていなかったというのだが、一体どのようにして報道の第一線で勝負する「伝わるチカラ」を培ってきたのだろうか?「地味で華がない」ことを自認する井上アナが実践してきた52のことを初公開! 人前で話すコツ、会話が盛り上がるテクなど、仕事でもプライベートでも役立つノウハウと、現役アナウンサーならではの葛藤や失敗も赤裸々に綴る。
※本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。
横文字を使いすぎると情報が伝わりにくくなる
無意識に使いがちでありながら、伝わりにくい言葉の1つにカタカナ語があります。日本語には、日々新たなカタカナ語が登場しています。「インフルエンサー」「エビデンス」「ダイバーシティ」など、ここ数年で一気に使用頻度が高まった言葉を挙げると枚挙にいとまがありません。
特にコロナ禍では連日「クラスター」「ソーシャルディスタンス」「ロックダウン」といった新しいカタカナ語を見聞きするようになりました。東京都では、小池百合子都知事が記者会見でカタカナ語を駆使するのが、おなじみとなっています。
悪いカタカナ語の使い方
カタカナ語のなかには、日本語に置き換えにくい言葉もあります。漢語、大和言葉、カタカナ語の融合が日本語の面白さでもあるので、カタカナ語の使用が一概に悪いわけではありません。
ただ、あまりに多用すると「英語を使っている自分」に酔っているように見えることもあり、鼻につきかねません。また、日本語が軽くなり、話している内容全体が軽薄に聞こえることもあります。
「わざわざカタカナ語で言わなくてもいいのに。本当に意味をわかって使っているの?」「プライオリティーって格好いい響きだけど、『優先順位』でいいでしょ」と、思わずツッコミたい気分になります。
いいカタカナ語の使い方
さらに、聞き慣れないカタカナ語は、聞き手の思考を止めてしまいます。たくさんしゃべった割には、ほとんど伝わらない、という問題が起こり得るのです。
カタカナ語は、相手によって使い分けるといいです。同じ会社内で、話が通じる人同士なら「今日のアジェンダは~」もアリ。ですが、他企業の人と商談するなら「今日の課題は~」にしておいたほうが親切です。
ずっとカタカナ語を使い続けていると、「また言ってる」という食傷感を感じさせてしまいますが、普段カタカナ語をほとんど口にしない人が、ここぞというときに使うとインパクトが生まれます。
スマートなカタカナ語の使い方
私も、カタカナ語は、極力減らしながら意識して話しています。例えば、ニュース原稿に「クラスター」と書いてあったら「集団感染」、「今日、お祭りがスタートしました」は「今日、お祭りが始まりました」に言い換えるといった具合です。
また、最初にカタカナ語を出してから、日本語訳を添えることもあります。自分が英語に疎く、横文字に弱いせいもありますが、テレビは高齢の方もご覧になっているので、日本語のほうが伝わりやすいと実感しているからです。
まずは書き言葉からカタカナ語を減らしてみる
カタカナ語を減らすには、まず書き言葉から減らしていく方法があります。メールやLINEなどで文章を書くときに、「カタカナ語はなるべく使わない」という制約を課してみるのです。
すると、自分が使いがちなカタカナ語の傾向がわかります。よく使っているカタカナ語を日本語に変換していけば、普段の会話からもカタカナ語を減らすことができます。
本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんたが降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、初の著書『伝わるチカラ』刊行。