仕組み化することで抽象化思考が磨かれる

 世の中には、論理的思考や問題解決の本がたくさん出版されていますが、それらを読んだだけでは抽象化思考は身につきません。抽象化思考を身につけるためには、実践で試して失敗を繰り返しながら磨いていくしかありません。

 抽象化思考を最も早く身につける方法は、仕組み化することです。

 正しく仕組み化できているかどうかは、同じ問題が再発するかどうかで分かります。

 仕組み化のための材料は、身近にいくらでも存在します。皆さんにも以下のような経験があるのではないでしょうか。

 ●上司から言われたタスクを付せんに書いてパソコン画面のふちに貼っていたけれども、気づいたら紛失していてタスクを忘れてしまった
 ●部下に週報の提出を指示しているが、何度言っても提出が習慣化しない
 ●クライアントに提出する資料に誤字脱字があったので、チームメンバーに気をつけるように指導したが、最終報告書に複数の誤字脱字が見つかった

 均質的で阿吽(あうん)の呼吸も使える日本では、現場が気合と根性で頑張ることで仕組み化しなくても問題解決できてしまうことが多くあります。従って、抽象化思考を身につけるには適していない環境と言えるでしょう。

 最近でも、政府が明確な方針を出さないまま他国に後れを取り、地方自治体に丸投げしたワクチン接種も、一度接種が始まれば地方自治体ごとの気合と根性によって、一気に接種率は他国に追いつきました。

 また、明確な方針が出ていなかった東京オリンピックでも、多くのボランティアが寝ずに対応したことで大きなトラブルもなく、全ての競技が終了しました。

 終わり良ければ全て良し、と現場に甘えるのではなく、抽象化思考を鍛えて仕組み化をしていきましょう。そのようにしなければ、いつまで経っても世界の中で最低レベルにある日本の労働生産性が改善することはないでしょう。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。