変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に、素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術だ。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

なぜ、日本では抽象化思考が身につきづらいのか?Photo: Adobe Stock

抽象化とはグルーピングすること

 前回解説した構想力を身につけるために必要な1つ目の思考方法が、抽象化思考です。抽象化を一言で言うと「グルーピングすること」です。

 例えば、下図で示したように、ダルメシアン、柴犬、ダックスフントに対して、犬というのは抽象化した状態です。さらに、犬、猫、熊、人間に対して、哺乳類というのはもう一段階抽象化した状態です。

 動物のように形あるものであれば比較的分かりやすいですが、世の中で起きている現象やそれを引き起こしている原因を抽象化するとなると、その難易度は上がります。

 現象の抽象化とは、例えば、東京都の売上が落ちた、神奈川県の売上が落ちた、千葉県の売上が落ちた、埼玉県の売上が落ちた、茨城県の売上が落ちた、栃木県の売上が落ちた、群馬県の売上が落ちたという現象があったときに、関東地方の売上が落ちた、とすることです。

 そして、これらの原因をヒアリングしてみると、東京都の売上が落ちたのは欠品が続いたから、神奈川県の売上が落ちたのは顧客の需要が下がったから、千葉県の売上が落ちたのは営業担当者の離職率が高まったから、埼玉県の……、茨城県の……、栃木県の……、群馬県の……というように、個別の事情がたくさん出てきます。

 実際にこれらを抽象化するには、座学だけではなく現場での経験が必要になります。

 想像力を膨らませながら仮説を立てて、事実を確認して抽象化をする必要があるので、幅広い経験がないと、間違った抽象化をしてしまうこともあります

 例えば、千葉県で営業担当者の離職率が高まったのは、千葉県にいる一人のパワハラ上司が原因であるにもかかわらず、関東地方全体で離職率低下に向けた施策を講じるのは間違った抽象化です。

 個別事象として対応すべきことなのか、それとも関東全体の事象として対応すべきことなのかは、明確に見極める必要があります。