五時間待ちの行列ができる

 そこで「Electronics Meets Crafts:」という展示を行ないました。

 その頃サムスンに代表されるような、いかにも先進的でテクノロジーを感じさせる製品が、世界にはあふれていました。そういう流れとはまったく真逆の、一見テクノロジーの要素が見えないようなプロダクトだけでつくり上げた展示でした。

 ・朝日焼の「お茶の豊かさを五感で愉しむ茶器」
 ・開化堂の「掌(たなごころ)で音を感じ、表情を愉しむ響筒」
 ・公長斎小菅の「陰と光を愉しむLEDペンダントライト」
 ・金網つじの「体験、記憶を膨らませる香炉」
 ・中川木工芸の「IHからの非接触給電によって中の銀砂(金属粒)を冷やし、冷酒を愉しむ木桶」
 ・細尾の「触れると音が鳴る、織物のスピーカー」

 
 が、一堂に並びました。

 すべてのプロダクトには説明のスタッフについてもらいました。来場者にマンツーマンで物を紹介しながら説明するというアプローチです。

 人数もバラバラに見せるのではなく、二〇人ずつを一組にして、一つひとつのプロダクトを丁寧に説明していきました。

 実際、ミラノサローネでもこの展示が話題になりました。会期の最後には五時間の待ち時間が発生していたほどです。あの待つことが嫌いなイタリア人が、長蛇の列をつくったほどでした。

 ミラノサローネはソニー、LG、BMWなど、世界の名だたる企業二〇〇〇社ほどが最先端のデザインのコンセプトを競い合う超大規模の見本市です。ミラノ中が熱気に包まれる、デザインのワールドカップです。

 その中で私たちは、二〇〇〇社の中から四〇社のノミネートに選ばれました。さらにその四〇社の中から、日本企業では唯一、「Best Storytelling賞」という大きな賞をいただくことができました。パナソニックとしても初めての受賞で、社内も沸いていました。