最近、『普通の人たちを予言者に変える「予測市場」という新戦略』が刊行された。本書は、日本で初めて予測市場をメインテーマに据えた待望の一冊である。この本を紐解けば、予測市場の可能性やその使い方が豊富な事例とともに説明されているため、今後、予測市場に関心を持つ人も増えるだろう。
しかし、投資やギャンブルの経験がなければ、予測市場の仕組みは少しわかりにくい。実際の応用方法も多岐にわたるため、実務における取り組みはそれほど容易ではない。
そこでこの連載では、本書の解説を執筆した静岡大学情報学部准教授の佐藤哲也氏が、予測市場の実際についてわかりやすく解説する。佐藤氏は2007年から予測市場サイトshuugi.in等を開設しており、実際の予測市場の実装と運営についての経験が豊富である。
連載第1回目は、まずは予測市場の仕組みについて解説してもらう。
 

天気に保険をかける

 楽しみにしていた遠足の日に雨が降るという経験は誰しもあるだろう。天候に左右されるイベントでは、常に天気のことが気になるものだ。特に、宿泊予約をともなう旅行ともなると、悪天候だからといってキャンセルすることは難しくなる。

 旅行会社にとっては、そのような天候の心配は販売上のネックである。そこで、雨が降った場合に返金するという、旅行者思いの航空会社や旅行会社がある。2009年にルフトハンザ航空が実施したキャンペーンでは、雨が5ミリ以上観測された場合、1日につき20ユーロの「保険金」を支払ったという。

 また、ベストリザーブという宿泊サイトでは、雨が降ったら宿泊代金を100%キャッシュバックするという、「お天気保険付きプラン」を準備している。そのような返金制度があれば、雨が降っても残念な気持ちが少しは和らぐというものだ。それによって、多くの人が旅行に行きやすくなると考えるかもしれない。

 これは旅行者から見ると、旅行が雨で台無しになるリスクを回避する仕組みである。もちろん、お金ではどうにもならないケースもあるだろうが、ここでは、そのお金で別の遊びをして、晴れの日と同じ程度は楽しめるものと考えよう。