「絶対的に強いリーダー」を求めるロシア
――『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』のなかにはロシア人が求める「リーダー像」についても記述があります。ロシアという国は歴史的に見てどんなリーダーを求める傾向にあるのでしょうか。
山中 書籍にも書いたのですが、あるロシア人に「ロシアにおけるリーダーシップとは、アメリカと違うのでしょうか?」と質問したとき「ロシアは政治が専制的なところがあるので、『私はリーダーシップを取ります』という発言は良しとしませんよ。出過ぎる杭は大統領に打たれる」と言っていたのは印象的です。
笑いながら語っていたので、半分は冗談かもしれませんが、半分は真実を突いているように私は感じました。
実際、ロシアでは「絶対的に強いリーダー」を求める傾向が歴史的にあると思います。さきほども述べたように、ロシアでは19世紀まで農奴制やそれに近い仕組みがありました。そうした仕組み自体は世界中にあったものですが、19世紀まで続いていたのはめずらしいと言えるでしょう。
農奴は領主の所有物であり、移動も、結婚も領主の許可なしでは行なえませんし、売買されていた記録もあります。
そのように自由を奪われ、従うことに慣れ、自立を諦めた人たちが、支配者に全部任せて「どうか暮らしをよくしてください。困ったら面倒を見てください」と願うようになるのも不思議はありません。
そんな状況が続いていたら、リーダーは強ければ強いほど「頼りがいがある」となっていくのも当然ではないでしょうか。
また、現在のロシアは14の国と陸地で接しています。それだけ安全保障上の問題も生じやすくなるわけです。北極海は氷に閉ざされていますし、こうした閉塞感や対外的な恐怖感があって、より強いリーダーを求めるようになっていると私は感じています。
分断の後、世界は協調へと向かっていく
――なるほど。そんなふうに説明してもらうと、ロシアとか、ロシアの人たちが「強いリーダー」を求める背景が理解できるような気がしますね。
山中 ロシア・ウクライナの戦争以降、世界は確実に分断に向かっていて、これからも不安定な状態が続くかもしれませんが、それがずっと続くのかと言えば、そんなことはないと私は思っています。
歴史を振り返れば、大きな混乱があったとき、その後はやっぱり協調へ向かっているんです。もしかしたら、それは5年、10年という年月を要するかもしれませんが、世界はいずれ協調へ向かっていくでしょう。
感染症の問題にしても、地球環境や経済の問題など、今世界で起こるあらゆる問題は、協調していかなければ、誰も勝者とはなり得ません。それは軍事紛争も同じです。軍事紛争は一時的に見れば、どちらが勝った、負けたがあるかもしれませんが、どちらにしても大きな傷跡を残します。
だからこそ、世界は協調に向かっていくのだと私は思っています。
たとえば、いま現在「ロシアはダメだ」とか、「あの地域はダメだ」「やりとりをしない方がいい」「ビジネスはできない」と感じることがあるかもしれませんが、私はもっと長期的に物事を見ていくことが大事だと考えます。
人類は苦しみを経験すればするほど、必ず協調へと向かっていく。協調へと向かわざるを得ない。そんなふうに私は思っています。やや希望的過ぎるかもしれませんが、歴史を紐解けば、やはりそれが1つの真理なのではないでしょうか。
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山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家。芸術文化観光専門職大学教授。神戸情報大学院大学教授。株式会社グローバルダイナミクス取締役。1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。エジプトでは、カイロのイスラム教徒の家庭に2年間下宿し、現地の生活を実際に体験。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、株式会社日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にてグローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバルダイナミクスを設立。研修やコンサルティングを通じて、激変する国際情勢を読み解きながらリーダーシップを発揮できる経営者・リーダーの育成に従事。2011年、大阪市特別顧問に就任し、橋下徹市長の改革を支援。カードゲーム「2030SDGs」の公認ファシリテーターとしてSDGsの普及にも努める。2022年現在、世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街、農村、博物館・美術館を徹底視察。コウノトリで有名な兵庫県豊岡市にある芸術文化観光専門職大学の教員としてグローバル教育に加え自然や芸術を生かした地域創生にも注力。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。テレビ朝日系列「ビートたけしのTVタックル」、朝日放送テレビ「キャスト」他に出演。著書に、『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)などがある。