10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。(初出:2021年9月27日)

最新脳科学でついに決着!「左利きは天才」なのか?【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

左利きは天才? 変人?

 左利きのイメージでよく取り上げられることの一つに、「天才」があります。右利きの人から、「左利きなの? 頭がいいんだね」など、言われた経験がある左利きも多いと思います。では、実際に左利きは「天才」なのでしょうか?

 哲学者のアリストテレス、そして、アインシュタイン、エジソン、ダーウィンなどの「天才」と呼ばれる偉人たちは、左利きであったと言われています。また、モーツァルト、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ピカソなどの世界的に有名な芸術家にも左利きは多かったようです。近代では、実業家のビル・ゲイツやオバマ元米国大統領なども左利きです。私は、こうした左利きの偉人たちは、右利き社会の中で革新的な役割を果たした人が多いと考えています。だからこそ、まわりから抜きん出て「天才」と呼ばれているのではないでしょうか。

 左利きに「天才」が多いと言われる理由を、脳科学の見地から考えてみましょう。

 まず、前提として、利き手が異なると脳の使い方が変わります。詳しくはのちほど述べますが、左利きは右脳を、右利きは左脳を主に発達させています。そして、右脳と左脳では役割が違います。それは、日々の中で同じことを同じように経験しても、右利きと左利きでは「感じ方が違う」ということです。

 インプットの仕方が違えば、おのずとアウトプットの内容も変わります。したがって、大多数の人と発想が違うのはあたりまえなのです。

左利きの脳はバランス抜群!

 また、左利きの脳は右利きに比べて「左右差が少ないことが、さまざまな研究で明らかにされています。これはつまり、左利きの脳は非常にバランスがとれているということです。

 生まれたときからマイノリティの左利きには、「右利きと同じように行動する」という課題が与えられています。右手がうまく使えないのに、右利き用の道具を使わなければならなかったり、「どうしたらうまくいくだろう」と考える場面が多いなど、快適に生きていくために「天才」になるような脳の使い方をせざるを得ないのです。そのような脳の使い方をしているのは、割合でいうと10人に1人。10人に9人の大勢の枠にはまらず、独自の脳の使い方をしていることが「左利きには天才が多い」と言われる、最も大きな理由だと私は考えます。

左利きは「違和感」を抱えやすい

 左利きは独自の脳の使い方をする「すごい」存在です。しかし、大勢とは異なる個性を持つために、周りと比べて「違和感」を抱えている人も少なくありません。

 今の社会は、右利き仕様にできています。ハサミ、スープ用のおたまなどの道具が使いづらいなど、物理的な不便はほとんどの左利きが経験します。そして、考え方や行動なども「何か違う」と違和感を抱くことがあります。これは、「天才が多い」と言われる理由と同じで、脳の使い方の違いから、周囲から見ると少し個性的に思えたり、得意不得意が異なったりするからです。それでは、利き手によってどんな脳の違いがあるのか、具体的に見ていきましょう。