(2)間接的なネットワーク効果

 間接的なネットワーク効果は直接の効果とはまた違っている。

 あるプラットフォームやネットワークを利用する人が増えてくると、第三者に、そのプラットフォームやネットワークに価値を付加する動機が生まれる。

 私が子どもの頃、ソフトウェアは、リアルの店舗で購入するものだった(ソフトウェアを買う子ども自体、あまり普通ではなかったが)。父親とよく「コンピュUSA」という店に行っていたのを覚えている。

 店内の通路の両脇にはウィンドウズ用のソフトウェアが多数並べられていて、通路の端の小さな一角にマック用のソフトウェアが少しだけ置いてあった。マックも良いコンピュータではあったが、なにしろウィンドウズのほうが圧倒的にユーザー数が多かったので、それだけネットワーク効果も大きかったのだ。

 このネットワーク効果は、ユーザーどうしが直接つながっていることによって生じたものではなかった(インターネットはまだ広く普及してはいなかった)。

 デベロッパにとっては、ウィンドウズマシン向けにソフトウェアを開発する動機のほうが、マック向けにソフトウェアを開発する動機よりも強かったのである。同じ描画ソフトウェアやゲーム・ソフトウェアを開発するのなら、マック向けよりもウィンドウズ向けのほうが多数のユーザーを獲得できる可能性がある。

 マック向けの開発ができないわけではないが、仮にソフトウェアを作ったところで獲得できるユーザーの数はしれている。どちらを選ぶべきかは明らかだ。

 もちろんウィンドウズ向けにソフトウェアを開発するデベロッパのほうが圧倒的に多かった。多数のユーザーを持つウィンドウズの間接的なネットワーク効果の存在は、「コンピュUSA」に大量のウィンドウズ向けのソフトウェアが置かれている一方で、マック向けのソフトウェアは片隅に少しだけしか置かれていなかったことからも明らかだ。

 だが、2013年には状況はまったく変わっていた。アップルが2007年にiPhoneを発売すると、皆がこぞって欲しがった。iPhoneは非常に革新的な道具だったので、それ自体が持つ価値だけで、大勢の人を購入に走らせるのに十分だったのだ。

 急激にユーザーを増やしたiPhone向けに多数のソフトウェア(アプリ)が作られた。そしてアップルは、2008年にアプリを販売するアップ・ストアを立ち上げた。iPhoneが多く売れるほど、デベロッパにとっては、アップ・ストアで販売するアプリを開発する動機が強まることになる。

 iPhoneの成長曲線はまるでエベレスト山のようだった。2007年に販売が開始されたiPhoneは、2013年には4億台売れていた。

 すでに述べたとおり、ユーザーの数はプラットフォームの質量である。ネットワーク効果は引力のようなものだ。

 多く売れるほどiPhoneの質量は増え、引力も強まった。その引力のせいで、時代のイコンのようになったiPhoneというブランドは、ますます多くの人を引きつけるようになったのである。

 それに対し、2013年のスマートフォン市場でのマイクロソフトの存在感は、かつての「コンピュUSA」の売り場でのマック用ソフトウェアのようになっていた。存在感が極めて希薄ということだ。

 デベロッパにしてみれば、ウィンドウズ・スマートフォン向けにアプリを作成する動機はほとんどない。それよりもiPhone向けにアプリを作成したほうがはるかに有益だからだ。

 2013年の時点で、iPhone向けアプリの数は、ウィンドウズ・スマートフォン向けの5倍以上だった。iPhoneのユーザーは非常に多いので、デベロッパはiPhoneユーザーに無料でアプリを提供することもある。

 一方、マイクロソフトは、ウィンドウズ・スマートフォン向けにアプリを開発してもらうため、デベロッパに大金を支払ったりもしている(1)。マイクロソフトとしてもiPhoneの引力に対抗するための努力をしてきたはずだが、とても十分とは言えなかった。

 iPhone自体が持つ価値にネットワーク効果が加わったことで、とてつもなく強い引力が生まれていたからだ。