「皆、違ってそれがいい」ではなく
「皆、違うんだね」をただ確かめる

 続いて、鈴木氏も「大学よりもリアルな場所が喫茶店だと思う。喫茶店というのは、小学生から大学生、ビジネスマン、主婦、地域のおじいちゃんやおばあちゃんまで、本当にいろいろな人が来てくれる。そこで政治の話が始まると、大学の授業やゼミで政治を話すよりもずっと多様な意見が出るし、ずっともめる(笑)。大学というのは、入試に受かって、学費を払えて、親御さんの思いや同意があって、ようやくたどり着けることができる場所。ある意味、『クリーン』な空間なんです。でも、社会に生きる人々はもっと多様なはず。本当は道端でいろいろな人と話すことができればいいのだけれど、それは難しいので、道端にある喫茶店でぜひ対話をしてほしい」と語る。

「これまで学校の教育では、ほとんど政治は扱ってこなかった。特に日本ではその傾向が強い。ある日、選挙の投票場の入場券が届いて、私の名前が載っている。よくわからないまま親に連れられて行ったのが最初に投票しに行ったとき。でも、『よくわからない』を共有する人もいないし、そのような場もなかった。わからないなりに『わからないよね』を共有できる場があれば、不安や恐怖も薄まるはず。多様な人が集まる喫茶店こそが、そのような対話や共有の場を担っていけるのではないかと思っている」と続けた。

 そこから話題は「政治と対話」へと移り、参加者からも積極的な意見が出てくる。

「大学に入る前は政治や選挙にあまり興味がなかったが、先輩と話していて、『何で若者の投票率が上がらないんだ』と先輩が言った。その言葉が、すごく、自分が批判されているように聞こえてしまった。でも先輩とは信頼関係ができていたので、しっかりと意見を交換することができた。先輩の意見も聞けたし、先輩も政治や選挙に関心を持てない私の気持ちをすることができ、お互いがちょっとわかり合えた。だから対話って大事なんだなと。フェミニズムなどに関しても、発信する側と偏見を持ってしまっている側、お互いの気持ちを知ることが大事なのかなと思う」

「以前、オピニオンリーダーを招いての、高校生や大学生といった若者向けの政治に関するイベントに参加したことがあった。若者の政治に関する意識を高めようというものだったが、イベントに来ている人は、そもそも政治への関心が高い人たちばかり。私は大学へ行っていないし、私の周りは政治に関心のない人が多い。そういう人たちはどうせ声が届かないと思っている。でも、SNSなどを使って、自分の小さい声を信じて発信することで、少しずつ世の中は変わっていくのかなと感じている」

田原総一朗氏と鈴木なりさ氏Photo by HK

「対話する場をつくり、参加者を集めるとき、集客を自分1人や同じ属性の人だけで行うのではなく、いろいろな人から声をかけて集客することが、対話の場で多様性を生むポイントではないかと思う」

「学校、特に公立学校は、多様な人がいて、多様な意見や考えを共有するに適している。対話する場をつくることができる。だから、学校の現場で政治についても語り合う場をもっとつくるべきだと思う。僕は教員免許を取得し、これから教員になることも決まった。でも、学校の先生は政治について話してはいけないと考えている先生がとても多い。そういったところから教員の常識を変えないといけないし、学校の教育現場から変えていく必要があると思う。学校で政治についてディスカッションをすることが、当たり前の世の中にしていかなければならない」

 鈴木氏は、「やはり皆、それぞれバイアスはあるはず。大事なのは、自らのバイアスを自認し、共有することだと思う。バイアスを是正し合うのではなく、それぞれを認め合う。答えはひとつではなく、たくさんある。『皆、違ってそれがいい』ではなく、『皆、違うんだね』というのを、ただ確かめる。そのような場づくりが必要なんじゃないかなと思う。良くても悪くてもどちらでもいい。答えはわからないんですから」と結び、この日のイベントは終了した。

 続いて、5月30日に開催された第4回は、谷保(東京都・国立市)で「スナック水中」を営む坂根千里氏(24)と、西国分寺(東京都・国分寺市)で「クルミドコーヒー」を営む影山知明氏(49)をゲストに迎え、今回も約20人の若者を交え、「ありたい私、社会が求める私」というテーマで対話が行われた。