健康と教育のディープな関係
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
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柳澤:少し古い研究にはなりますが、ざっくりいうと「小中高の12年の教育を修了していない人は12年すべて受けた人に比べて死亡率が2倍高い」という結果があるんです。[1]
もちろんいろんな要因や因果関係があることが大前提ですが。
でもこの内容だけ聞いたら結構ショッキングですよね。
では医師たちはまず小中高の教育を修了できなかった人たちをターゲットに健康で長生きする方法を広めたらいいじゃないか、と思いませんか?
でも、基本的に医師は「病気になった人や具合が悪くなった人をどうするか」という教育しか受けていません。
医学部は6年間、解剖や生理学から始まり、外科も小児科も産婦人科も全講義と実習を終わらせたうえで、医師国家試験に合格しなければいけない。
だから病気にならないためにどうするか、病気になっていない人に何ができるか、というアプローチを勉強する時間はほとんどないんです。
そして医師になった後は臨床研修では数ヵ月単位で主要な診療科をまわり、専門が決まった後は自分の専門分野の最新論文や手法などを身につけるのに必死です。
たとえば、警察も何か事件が起こらない限り、実際に動くのは難しいですよね。
同じように、医者も患者さんが病気になって来院されない限り、基本的には保険診療内でできることはあまりないんです。
そうなると現場では瀬戸際で手遅れの状態(下流)で命をつなぎ止め続けるしかない。
だから、もっと上流に向かっていかないといけない。
そんなふうに考えるようになったんです。
星:そのようなターニングポイントに出会ったのが、イチローカワチ先生の著書だった、ということですね。
柳澤:そうなんです。その本ではアップストリーム(流れを遡る・上流へ向かう)という概念について書かれていて、まさに私の探し求めていた考え方だと思いました。
そこから可能な限り病気を上流で止めることができる分野を探し求めたところに予防医学(病気を未然に防ぐ)、そして予防医学よりさらに前に「教育をする段階が存在する」ことに気づきました。
そして、その領域を突き詰めていった結果、今の東京大学医学研究科社会医学専攻公衆衛生学の分野にたどり着いたわけです。
星:やはり「教育」という分野から「国民の健康」にアプローチしていく目線というは、日本では新しい考え方なのでしょうか?