事業も「天動説」ではなく「地動説」

朝倉:ありがとうございます。やはり、零細スタートアップの経営と、上場はしているものの苦境に立っている会社の経営という、両極端な世界を体験したことによって、ファイナンスの重要性が染みつきましたね。

自分が経験したことを、リバースエンジニアリングとして言葉にまとめるとどうなるのか、何度も頭を絞って考え、いろいろな人にヒアリングした結果が『ファイナンス思考』です。ただ、発想としては、そもそもスタートアップや起業はPL脳ではできない。先行投資がかさむのだから、そこから脱却できないのであればやらないほうがいい。

それは、ファイナンスの超原型のようなものを零細スタートアップで味わい、一方でまだスタートアップの部類のはずなのに成熟してしまった事業を通じて、今ある事業を専守防衛するだけでは到底成長はない企業をどうやって立て直すか考えた結果です。と、もっともらしく語っていますが、やっているときは必死です。

平尾:コンテキストが沁みますよね。私は学生ベンチャーもやって、それが大成功できなくて大きな会社に入って勉強し直して、もう一度やっています。朝倉さんが様々なご経験を経て発想されたという話を聞いて、だからこそそこにたどり着かれたのだと思いました。

資本市場の変化が激しく、ボラティリティがあるなかで、利益と成長のどちらを重視するべきかが問われています。最近のY Combinatorの方のインタビューでは、大事なのは常に成長であり、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)こそがスタートアップが見せるべきものである。PMFを具現化するのが成長だと。

もちろん利益は問われます。ウクライナ問題などマクロ的に不安定ななかでも、フェルミ推定で満足するのではなく、リアリティのある利益を語るべきです。そのうえで、スタートアップの存在意義は絶対に成長なんだと。大変興味深かったです。

朝倉:ファイナンスに限らず、事業は「天動説」ではなく「地動説」だと思っています。自分たちがどうしたいという意思は、もちろん大切です。でも、自分たちはものすごく大きなマーケットの中をぐるぐる回っているひとつの惑星にすぎません。そう考えたとき、いくら自分たちがどうしたいと言ったところで、無理なものは無理なんですね。外部環境に常に自分たちを合わせていかなければならない。それが本質だと思います。

成長と利益のどちらをより重視するかは、その時々のバランス感覚だと思います。それはやはり、外部環境がどうなっているかに依存すると思うんです。

ただ、丈さんがおっしゃった通り、スタートアップだけでなく基本的に上場している会社はすべてそうだと思うところはあります。であるならば、存続を維持できる、担保できる環境を整えたうえで、成長を目指していかなければならないのが大前提だと思います。スタートアップの存在意義とは、いったい何なのかというところを考える必要があります。

〈第4回へ続く〉

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