「糖質を摂取しなければがんが小さくなる」、
「にんじんジュースには抗がん作用がある」、
「血液クレンジングはがん予防に有効」……。
インターネットにあふれているこのような話は、明確な効果が期待できません。しかし、これらを信じてしまい、怪しい業者に大金を払ってしまったり、病院で治療を受けるのをやめてしまったりして命を危険にさらす患者さんが後を絶ちません。
国民の2人に1人が生涯のうち一度はがんになる時代になり、がんは身近な病気になりました。しかし、がんについて学ぶ機会はほとんどありません。仮にがんと告知され、心身共に弱り切った状態でも、怪しい治療法を避けて正しい治療法を選ぶにはどうしたらいいのでしょうか。
4/2に発売予定の新刊『世界中の医学研究を徹底的に比較して分かった最高のがん治療』は、このような「トンデモ医療情報」の被害を抑えようと情報発信をしている3人の医師・研究者が書いたがんの解説本として、発売前からすでにSNS上で大きな話題になっています。
医療データ分析の専門家である津川友介UCLA助教授、抗がん剤治療のパイオニアである勝俣範之日本医科大学教授、がん研究者である大須賀覚アラバマ大学バーミンガム校助教授の3人が、それぞれの専門分野の英知を詰め込んで、徹底的にわかりやすくがんを解説。読めば必ず正しい選択ができる一冊に仕上がりました。
本書の刊行を記念して、本書の内容および、津川友介氏、勝俣範之氏、大須賀覚氏による発刊前に行われた講演を再構成した記事をお伝えします。(構成:野口孝行 初出:2020年3月28日)
食事でがんは予防できるのか
がんは日本人の2人に1人がなる国民病です。がんになりたくないと思っている人は多いと思いますし、食事でがんを予防できたらしたいと考えている人も多いのではないでしょうか? 現に、テレビの健康番組や本屋に行くと、「がんを予防する食事」に関する情報があふれています。
本当に食事でがんの予防することはできるのでしょうか?
結論から言うと、がんになってしまうリスクを下げるという観点であれば、「できる」と言っていいでしょう。一方で、食事によってリスクをゼロにできるかという問いであれば「できない」が答えになります。
予防とひとくちに言っても、色々な考え方があります。たとえば、HPVワクチンの接種によって子宮頸がんのようながんを予防したり、体重管理をして肥満を避けることでリスクを下げたりすることは可能です。しかし、食事によってリスクをゼロにできるかというと、そこまでの劇的な効果は期待できません。
食事とがんのリスクの関係に関して、信頼性の高いエビデンスを基に予防についてまとめたものが図表1です。
出典:*1-9より筆者ら作成
これら5つの食品は、がんのリスクを下げると複数の研究で報告されています。諸外国では野菜と果物は同じカテゴリーに含まれるので(野菜と果物を合わせて一日350~400g以上摂取することが推奨されています)、並列して表記しました。
全粒穀物は、玄米、全粒粉、そば、雑穀類など、精製されていない穀物を指します。表の右列には、これら5つの食品の摂取により、どういったがんが減るのを記してあります。これを見ると、大腸がんが多いのがわかるはずです。
ほとんどの研究は、ランダム化比較試験という最も質の高い研究で証明されているもの、もしくは5~10の複数の良質な研究の結果をまとめたものです。いずれにしても信頼できる研究によって「がんのリスクが下がる」と証明されているので、覚えておくといいでしょう。