因果関係と相関関係を区別しよう

──問題が発生したとき、本当の「因果関係」を正しく見極めるのはとても難しい、と『遅考術』にも書かれていましたよね。これから訓練しないと……。

植原:そうですね。「因果関係」というのは、構造が複雑になっているケースも多いんです。

よくあるのは、「因果関係」と「相関関係」を混同して考えてしまうこと。

たとえば、「母乳で子育てすると子どもの知能指数は高くなる」といった説を主張している人がいるとしましょう。

これは、たしかに一見すると関係があるように見えますが、実は、「因果関係」ではなく「相関関係」。

家計を支えるために日中もフルで仕事している忙しいお母さんは、子どもをどこかに預けざるを得ない状況におかれます。

となると、どうしても母乳で子育てをするのは難しい。

それに対して、母乳で子育てできる人は、時間的・経済的余裕がある可能性が高い、と見込まれます。

要するに、

原因:母乳で子育て

結果:高い知能

ではなくて、

共通原因:経済的に恵まれていること

結果①:母乳で子育て
結果②:高い知能

という構造です。

──なるほど、これが「相関関係」なんですね。

植原:はい。まあ、相関関係が見られるなら因果関係も成り立っているかもしれない、と推測すること自体はおかしくないのですが、混同を避ける慎重さが必要ですね。

「公平に評価されていない」と感じさせないために

──たしかに、「この人は本当の原因をわかってくれていないし、わかろうともしてくれていない」というのは、叱られる立場の人間にとってはかなりしんどいですね。

植原:そうですね。人間にはさまざまなバイアスがあります。自分が信じている主張や、信じたい仮説に有利な証拠ばかりに注意を向けて、そうした主張や仮説に反する証拠を無視してしまう、というのも、バイアスが引き起こすエラーのひとつ。

──感情的になり、思い込みが強くなってしまうこともありますよね。「これが悪いに決まってる! だから認めさせなきゃ!」みたいな……。

植原:そうですね。問題の原因をすべて決めつけて、他の主張を許さないという状況だと、言われる側は「公平に評価されていない」と感じてやる気を失ってしまう可能性が高いかなと思います。

さきほどもお伝えしたとおり、他人をきちんと評価すること、因果関係を見極めることは、極めて難しいのです。

だからこそ、自分が信じている説を批判的に眺め、さまざまな視点から点検作業をするのが大事だと私は思っています。

熟慮が苦手という人でも少しずつ慣れていけるように、本書は問題形式で進んでいきますので、今回の記事で取り上げたような悩みをお持ちの方には、じっくり取り組んでいただけたらと思います。

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植原 亮(うえはら・りょう)

1978年埼玉県に生まれる。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術、2011年)。現在、関西大学総合情報学部教授。専門は科学哲学だが、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも積極的に取り組んでいる。
主な著書に『思考力改善ドリル』(勁草書房、2020年)、『自然主義入門』(勁草書房、2017年)、『実在論と知識の自然化』(勁草書房、2013年)、『生命倫理と医療倫理 第3版』(共著、金芳堂、2014年)、『道徳の神経哲学』(共著、新曜社、2012年)、『脳神経科学リテラシー』(共著、勁草書房、2010年)、『脳神経倫理学の展望』(共著、勁草書房、2008年)など。訳書にT・クレイン『心の哲学』(勁草書房、2010年)、P・S・チャーチランド『脳がつくる倫理』(共訳、化学同人、2013年)などがある。

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