ノーベル賞経済学者リチャード・セイラーが「驚異的」と評する、傑出した行動科学者ケイティ・ミルクマンがそのすべての知見を注ぎ込んだ『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(ケイティ・ミルクマン著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。世界26か国で刊行が決まっている世界的ベストセラーだ。「自分や人の行動を変えるにはどうすればいいのか?」について、人間の「行動原理」を説きながらさまざまに説いた内容で、『やり抜く力 GRIT』著者で心理学者のアンジェラ・ダックワースは、「本書を読めば、誰もが超人級の人間になれる」とまで絶賛し、序文を寄せている。本原稿では同書から、その驚くべき内容の一部を特別に紹介する。
「話したことを信じる効果」で自分が信じてしまう
心理学者のローレン・エスクレイス=ウインクラーは、助言提供の力に関するこれらの研究(注:助言を他人に与えることで、助言をした当人のさまざまな成績が上がったという研究)について、考えれば考えるほど納得できた。アドバイスを求められた人は、自分はもっとできると期待されていると感じ、自信が持てるようになったのだ。
また実験と並行して行ったインタビューからわかったのだが、人々は自分自身が苦戦していた目標の達成に役立つアドバイスを求められると、じっくり考えることもなく、ぱっと答えることができた。業績不振の営業担当者や成績不振の生徒など、苦戦している人々でさえ、多くのよいアドバイスを持っていた。
他人に助言を与えることが自分にも役立つのは、主にこの理由による。
だが理由はもう一つある。
私たちが他人に与える助言は、自分の経験がベースになっている。たとえばベジタリアンがダイエットのコツを問われたら、植物由来の食事のヒントを与えるだろうし、多忙なエグゼクティブが体を鍛える方法を聞かれたら、効率的な運動メニューを勧めるだろう。
つまり、誰かに教えを乞われると、私たちは「自分に役立つこと」を教える傾向にある。そしてその助言を与えたあと、自分自身でもそれを実行しなければ偽善的に感じてしまうのだ。
これは、心理学で「話したことを信じる効果」と呼ばれる現象だ。誰かに何かを言うと、認知的不協和(注:自分の考えや行動に矛盾がある状態)を避けるために、それを自分で信じてしまうことが多い。(中略)
「ノークラブ」で助言を与え合う
だが、こんな疑問を持つ人もいるだろう──もし誰にも助言を求められなかったらどうするのか? つまり、ローレンのアイデアを実践するのに、「他人から助言を求められる」という、自分の力ではどうにもならない条件が必要なら、そんなに簡単には使えないのではないか?
さいわい、助言提供の力を自分のために簡単に役立てられる方法はある。
一つは、助言クラブを結成することだ。何人かで定期的に集まって、お互いに助言を与え合う。これがうまくいくことを私は知っている。ローレンの研究を知るずっと前から自分でも行ってきたからだ。
カーネギー・メロン大学の経済学者リンダ・バブコックから、2015年にこんな話を聞いた。女性は休日のパーティーの企画や、会議のメモ取り、いくつもの委員会の委員といった、下働きの雑用を押しつけられがちだというのだ(これはあらゆる業界や文化にあてはまる)。
リンダはそんな状況から逃れるために、女性の同僚4人と助言クラブをつくり、もっと「ノー」と言いやすくなるよう助け合っている。
私は感心して、教授仲間のモデューペ・アキノラとドリー・チョーの2人に声をかけて、同じようなクラブをつくった。そして私たちのうちの誰かが、教職や研究の責任を超えた負荷の大きい仕事を頼まれたら、毅然と断れるよう助け合おうと誓い合った。
いまではメンバーの誰かが講演やブログ投稿、インタビューなどを求められると、引き受ける価値があるかどうかを「ノークラブ」で話し合い、価値なしと判断した場合は、礼儀正しく毅然と断る方法について知恵を出し合っている。
私はクラブで得られる助言にとても助けられている。だが、自分が与えた助言にも大いに助けられている。同僚がいつノーを言うべきかを一緒に考えるうちに、どんなときに断るべきかを自分で判断できる自信がつき、年々クラブに頼らずにすむようになっている。
「口にすること」で自分も説得してしまう
また、「話したことを信じる効果」にも助けられている。
専門分野外のテーマの招待講演で貴重な時間を無駄にすることはない、と誰かに助言すると、自分でもそうした招待を引き受けるのはばかばかしく思えてくる。
あなたも、同じような目標をめざす友人たちと、助言クラブをつくったらどうだろう。(望まれる)助言を与えたり受けたりするうちに、お互いの自信を高め合いつつ、自分の問題を解決するアイデアも発見できるかもしれない。
もう一つの簡単な方法が、困難に突き当たったら、視点を入れ替えてみることだ。「もし友人や同僚が同じ問題に苦しんでいたら、自分はどんな助言ができるだろう?」。この視点から考えれば、自信と知恵を持って同じ問題に立ち向かえるようになる。
(本原稿は『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』からの抜粋です)