「つい他人が期待する答えを言おうとしてしまう…」「正解にとらわれて柔軟な発想ができない…」「意見・感想を求められるのがニガテ…」──日本人には、こういう悩みを抱えている人が多いのではないでしょうか。そんな人たちにぜひ参考にしていただきたいのが『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』という本です。
著者の末永幸歩さんは、テレビ番組「セブンルール」でも取り上げられるなど、各種メディアからも熱い注目を集めている美術教師。現在は、全国の小中高生だけでなく、大手企業などのビジネスパーソンにも向けた授業・研修にも引っ張りだこの毎日を送っています。
「ものの見方が変わった!」という反響がとまらない「スゴい美術の授業」とは、いったいどんなものなのか?『13歳からのアート思考』からの引用も交えながら、末永先生に語っていただきました。
2億ドルの値段がついたアート作品
私の「美術」の授業では、中学生・高校生のみなさんに《ナンバー1A, 1948》という絵を見ていただくことがあります。
これは、ジャクソン・ポロックというニューヨークのアーティストが発表した絵画です。
アート史のなかでも非常に高く評価されてる作品で、同時期に同じ手法で制作された《ナンバー17A》は「史上5番目の超高額(約2億ドル)で取引された作品」としても有名です。
タテは成人男性の身長ほど(1.7メートル)、ヨコは2.6メートルほどの大きな絵なのですが、サイズ以上に衝撃的なのがその「見た目」です。
何も考えないで描いたような「フシギな絵」
まさしく「巨大なラクガキ」……といったところでしょうか。いや、ラクガキなのかどうかすらよくわからない、混沌とした作品です。
生徒たちも圧倒されている様子で、
「目をつむって描いたみたい」
「なにも考えないで描いたんじゃないかな」
「むしゃくしゃしている感じ」
といった感想を口にします(気になる人はぜひ検索してみてください。『13歳からのアート思考』でもカラーで掲載しています)。
アートだと思っていないところに、
アートが転がっているのかも…
私の授業では、この不思議な絵画が持つ意味についてみなさんと考えていくわけですが、今回はこの授業を受ける「前」と「後」とで中高生たちのなかにどんな変化が起きたのかをご紹介してみたいと思います。
以下は同書254ページからの引用です(一部修正)。
【質問】授業を受けたいま、どんなことを考えていますか?
「これまで私は、アートに対してなんとワンパターンだったのだろうかと気づいた。絵を見るときはいつも、『なにが描かれているのだろう?』と考えていた。今回の授業で『物質そのもの』とか『行動の軌跡』といったまったく新しい角度から絵を見ることができた」
「アート作品は作者の技によって『透明化』される。私たちが見ていたのはアート作品そのものではなく、それが映し出す『イメージ』のほうだった。私たちがアートだと思っていたものは、じつはアートそのものの姿からは、最も遠いのかもしれない。逆に考えれば、私たちがアートだと思っていないところに、アートそのものが転がっているのかもしれない」
【質問】今回の授業を通り越して、考えられることはありますか?
「スマホやパソコンはまさに『イメージを映し出す窓』だと思う。窓の向こうに無限の世界が広がっているけれど、すべて架空のものだ。スマホやパソコンを『物質』としてとらえてみると、毎日たくさんの人が『金属とガラスでできた板』を何時間も飽きずに眺めているということになる」
「アートを『行動の軌跡』ととらえれば、つくり手が意識していないところにも、アートは自然と生まれているのではないかと思った。砂浜の足跡、雪道にできた車の轍、テーブルの上のキズ跡……アートは日常のなかにもあるのかもしれない」
(引用はここまで)
息苦しいときこそ「アートの考え方」をまなんでみよう!
いかがでしょうか?
中高生たちからは、すばらしい「自分なりの答え」がたくさん出てきていましたね。
ちょっとした工夫や習慣を取り入れれば、たった1枚の絵画を見るだけでも、誰でもこんなふうに「自分なりのものの見方」ができるようになります。
つい「他人の決めた正解」にとらわれて息苦しさを感じている……。違和感やモヤモヤを抱えているのになかなか言い出せない……。同じ毎日ばかりでなんだかつまらない……。
そんな方は、ぜひアート作品を通じて「自分だけの答え」を生み出す力を磨いてみてくださいね!
(『13歳からのアート思考』では、それに役立つエクササイズや問いかけを多数ご紹介しています)
美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を展開。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップや、出張授業・研修・講演など、大人に向けたアートの授業も行っている。初の著書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が17万部超のベストセラーに。オンラインで受講できるUdemy講座「大人こそ受けたい『アート思考』の授業──瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨く」を開講。