会社や社会の中で競争しながら躍起になって生きてきて、果たして本当に成功したのだろうか?
2000年代のマイクロソフトは社内競争が大変厳しく、ライバルは同僚だった。
しかしその間に、Googleやアマゾンが革新的なサービスを生み出して急成長を遂げ、マイクロソフトは長期不振に陥ってしまう。
そのようななか、南インド出身のサティア・ナデラ氏をCEOに迎え、マイクロソフトは全面的な組織改革をおこなった。
「顧客が抱えている真の問題点を解決するために、幅広くパートナーと協調することが、われわれの義務だ」とし、かつての社内競争ではなく協調・貢献の精神を貫く企業文化を形成し、復活を遂げる。
もはや、一人で成功する時代は終わった。これからは競争よりも助け合いの時代なのだ。
マイクロソフトでアジアリージョンマネージャーとして活躍する著者が、かつてのマイクロソフトが陥った「ストールの罠」について解説する。
マイクロソフトの社員たちは、
グーグルではなく同僚同士で競い合っている
「マイクロソフトの社員たちは、グーグルではなく同僚同士で競い合っている」
「マイクロソフトは宝の持ち腐れ。優秀なエンジニアを無駄に囲い込んでいるだけだ」
こうした世間の酷評をわざわざ持ち出すまでもなく、私が入社した2000年代初頭から、サティア・ナデラがCEOに就任する2014年までの間、マイクロソフトの株価は20米ドル台を前後していました。
その間、グーグル、アップル、アマゾンが台頭し、新しい商材を次々と世に送り出していたというのにです。一時は革新アイコンとして世界中から優秀な人材をかき集めたマイクロソフトも、社内で人材が成長できる文化を築き上げることができないまま、長きにわたり低迷していました。
Photo: Adobe Stock
売り上げが急落して危機に陥る「ストールの罠」
会社戦略および運営についての分析を提供するアメリカの企業運営理事会(Corporate Executive Board / CEB)のマシュー・S・オルソンとデレク・バン・ビーバーは、好景気に沸いていたはずの企業の成長が一瞬にして危機に陥る「ストール・ポイント(Stall Point)」について研究しています。
彼らの分析によると、米ビジネス誌『FORTUNE(フォーチュン)』が選ぶ100大企業傘下のグローバル企業500社中、今後も持続的に成長できる企業は13%にも満たず、残る87%は「ストールの罠」に陥っているとしています。
その中でも再び相当レベルの成長率まで回復できる企業はわずか11%で、76%はストールを克服できず失敗するだろうとしています。
会社が「ストールの罠」に陥るもっとも大きな理由は、市場から発信される変化のサインを雑音として無視することにあります。これによって、新たな競合他社の出現や消費者の嗜好の変化に適切な対応を取ることができないのです。
Photo: Adobe Stock
特に今日のように、技術革新と並行して消費者の嗜好が絶えず変化している時代はなおさらです。絶対的だったドイツの高級車の牙城がテスラやアップルカーのようなEV(電気自動車)の出現に揺らいでいるのがよい例です。
これだけの目まぐるしい時代では、たとえどれだけの天才がいたとしても、たった一人の力ではすべてを網羅することは不可能です。
専門家や教授の知識を座学で身に付ける一昔前のような知識習得のスタイルでは太刀打ちできません。教える側さえアップデートが大変なほどです。
何より、今は学び方もさまざまで、誰もが教授や専門家に近い情報や知識を自ら探しだし、学ぶことができます。学校に行けば勉強で、YouTubeを見れば遊びだとは決めつけられないのです。
優秀さよりも重要なもの
重要なのは、学んで成長しようという姿勢です。だからこそ会社の同僚とは、実績や昇進を競い合うのではなく、お互いの持つ経験や知識を共有し合うパートナー関係であるべきです。
そこで必要となるのが、この後詳しく述べる評価方式の大々的なテコ入れです。
また、会社と社員との関係も見直さなければなりません。今や社員の一人ひとりが会社にとっては教師であり消費者であり、社運を担う貴重なパートナーです。社員の成長なくして組織の成長はあり得ないのです。
さらに裏を返せば、働く社員側も、会社に対する見方を変えるべきです。
会社に骨をうずめる覚悟や昔ながらの忠誠心だけで長く働けるわけもなく、会社側もそれを望んでもいないのですから、働く側も会社で経験を積んで成長し、その成果を会社にリターンしてやろうというパートナーシップの気持ちを持つことが必要です。
そうすれば、その過程で得た技術や知識、ネットワークが自分のものとなり、次のキャリアへの道も開けるのです。
ナデラCEO就任以降、マイクロソフトが十数年間の不振の沼から這い上がることができた秘訣も、なにもクラウドやAI技術によるものではありません。学び、共有しようという成長マインドセット(growth mindset)の文化を、全社員、会社そして消費者とともに築き上げていこうというパートナーシップにありました。
(本原稿は、イ・ソヨン著『パートナーシップ PARTNERSHIPーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』を編集・抜粋したものです)