2000年代、社内競争が厳しかったマイクロソフトは、Googleやアマゾンが革新的なサービスを生み出して急成長を遂げ、マイクロソフトは長期不振に陥ってしまった。
そのようななか、南インド出身のサティア・ナデラ氏をCEOに迎え、マイクロソフトは全面的な組織改革をおこなった。
「顧客が抱えている真の問題点を解決するために、幅広くパートナーと協調することが、われわれの義務だ」とし、かつての社内競争ではなく協調・貢献の精神を貫く企業文化を形成し、時価総額1位を奪還。復活を遂げる。
もはや、一人で成功する時代は終わった。これからは競争よりも助け合いの時代なのだ。
マイクロソフトでアジアリージョンマネージャーとして活躍する著者が、マイクロソフトを大きく変えた人事評価について解説する。
記事で紹介する「4つの質問」は、すべてのビジネスパーソンに使えるものだ。転職活動の際の「自己PR」として活用できる。自身の今の仕事における影響力とはどのようなものか、さっそくチェックしてみよう。
脱・競争主義。
マイクロソフトを
大きく変えた人事評価
競争主義の文化とパートナーシップの文化。
マイクロソフトに在籍していた約20年間で、私はその二つを順に体験してきました。
「ストールの罠」に陥り、暗礁に乗り上げた巨大艦艇マイクロソフト――そんな会社が短期間で小回りの利くジェットフォイルに生まれ変わる過程には、いくつもの紆余曲折がありました。
マイクロソフトのアジャイル経営と組織革新の中で、もっとも変化した部分を挙げるなら、人事評価のあり方だと言えるでしょう。
過去のマイクロソフトの企業文化は「すべて知っている(Know-It-all)」、すなわち「社員は会社のことを何事も知っているべきである」が大前提であったのに対し、サティア・ナデラCEO就任以降は、「すべてを学ぶ(Learn-It-all)」、つまり「社員は何事も学べばよい」という成長マインドセット重視の企業文化にシフトしたのです。
現在、マイクロソフトの社員たちは期末ごとに、部署や会社の目標に沿って自身が行った仕事を振り返ったのち、マネージャーとの面談を通して評価されています。
評価面談で尋ねられる「4つの質問」
この振り返りには大きく分けて以下の4つの質問が与えられていて、いずれも叙述形式で答えるスタイルです。
1.今期のあなたの成果は、どのようなビジネスに影響を与え、また、役に立ったか?
2.どこを改めていれば、より大きなビジネスとして影響を及ぼせたか?
3.来期、あなたが期待するビジネス影響力は? また、あなたの主な成果は何か?
4.今後、あなたが学び、伸ばしていくべき部分はどういうところか? あなたの成長や発展に必要な経験やスキルは何か?
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無機質な数値で評価されるKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)に従って、達成はグリーン、未達成はレッドで表示されていたこれまでの成果測定方式とはまるで違っていました。
この4つの質問に対する回答は、数段落からなるテキストで作成するようになっているので、いざ書こうとすると簡単なものではありません。
ただ会社に指示されたとおり成果を上げることだけに集中していては、それがどのビジネスのどんな部分に影響を与えるのかというところまで想像が及ばず、回答に窮する質問ばかりなのです。
一方、評価する側のマネージャーは、日々観察してきたことや定期的な個人面談などでコーチングしてきた内容をベースに、部下が提出してきた回答にフィードバックと総評を行います。
このとき、評価する側もされる側も、会社が要求する2つの基準を完璧に理解していなければなりません。
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1つ目は、被評価者が成長マインドセットを念頭に仕事が行えていたかどうかという基準、2つ目は、被評価者個人の成果のみならず、他の人たちの成功に対しても貢献できていたか、また、被評価者の成果は他の誰のどういったサポートがあって実現できたのかという、影響力についての基準です。
※影響力については、次回の記事で詳しく説明します(2022年10月25日公開予定)。
(本原稿は、イ・ソヨン著『パートナーシップ PARTNERSHIPーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』を編集・抜粋したものです)