ソニーの社長・会長を務め、退任後はクオンタムリープを創業し、起業家の支援など幅広く活動していた出井伸之氏が今年6月、84歳で逝去した。かつて、まだ名門大企業とはいえない成長企業だったソニーに就職し、決してエリートの王道とはいえないキャリアを経て、なんと14人抜きで社長に抜擢、会長退任後はそれまでの地位に拘泥することなく積極的に若者を支援した。「世間の常識」にとらわれることなく、自分なりにその時々を楽しみ「生涯現役」を貫いた人生だった。出井氏はみずからの人生を振り返り、「楽しく充実した毎日を送れているのは、人生の中で、何度も『リポジション』をしてきたからだ」と語っていた。リポジションを含めて、思考を整理する際にノートやメモをどのように活用していたのか、といった点も著書『変わり続ける 人生のリポジショニング戦略』で述べていた。「お別れの会」を機にご冥福を祈りつつ、ご紹介しよう。(書籍オンライン編集部)
アウトプットに欠かせないもの
思いつきや考えは、アウトプットしてはじめて形になる。
頭の中にあるものを、整理したり、棚卸ししたり、というのは、手を動かさなければできない。ちょっとした時間があれば、真っ白な紙にペンで何かを書き出している。これは長年のちょっとした習慣になっている。
「リポジション」を考えるときにも、ノートやメモに書き出している。
メモは無印良品の「再生紙らくがき帳」に書くことが多い。B5サイズの無地の紙で、1冊100円程度。その名のとおり気楽に書ける。思いついたらさっと書けるよう、机の上に置いてある。メモした紙は、破ってファイリングすることが多い。
ときどき、そのファイリングを見直す。自分が驚くようなことが書いてあったり、同じことを何度も書いていたりもする。同じことに「気づく」ことに意味がある。どうでもいいことは忘れてしまう。大事だと思っているから、何度も書くのだ。
僕のデスクの上には、常時5、6冊のいろんな大きさ、いろんな形、いろんな色の分厚いノートやダイアリーが置いてあって、気が向いたものを取り出して、サラサラとメモを書いたりする。
「1冊」にすべてをまとめない理由
「1冊にまとめたほうが、見返したり管理したりする上で便利ではないですか?」
さまざまなノートやメモが机の上に散らばっているのを見て、こんなことをいう人がいた。
たしかに、規格を統一するほうが、使い勝手はいいだろう。しかし、私はあえてそれをやらない。あえてバラバラのノートやメモを駆使しているのだ。無印良品のらくがき帳に、モレスキンのノートやロディアのメモも愛用している。サイズもそろえないし、無地に横罫に方眼と、デザインもさまざまである。
同じことを考えるにしても、同じノートで考えるのではつまらない。大切なことを何度も書くのではなく、単に前に書いたことと同じことが思い浮かんでしまったりする。それでは意味がない。ノートの色や大きさ、罫線の太さ、紙の質感などが同じだと、自分の考えもそれらに制約されてしまうことがある。
そこで、違うノートを用意しておいて、そこにどんどん書いていくのだ。
書店や文具店で、気に入ったノートがあれば、また買い足す。ノートは何種類にもなってしまっているが、これはこれでいいと思っている。
まさしくノートは、僕の脳の中身かもしれない。いろんなノートを買ってきて、いろんなことを書いてみる。数百円でできる贅沢である。
さまざまな大きさのノートやメモは、「リポジション」を考えるのに最適なツールだと思う。