「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。
部分的なもの忘れから全体的なもの忘れへ
【前回】からの続き 認知症の多くは、部分的なもの忘れから始まります。部分的なもの忘れが、全体的なもの忘れに発展すると、認知症が疑われます。昨晩食べたおかずが思い出せないのが、部分的なもの忘れ。これが全体的なもの忘れになると、昨晩ごはんを食べたこと自体を忘れてしまいます。
また、約束の時間を忘れるのは部分的なもの忘れですが、全体的なもの忘れになると約束したこと自体を忘れてしまいます。大切な人の名前が思い出せない、大事な約束を忘れてすっぽかしてしまった……。全体的なもの忘れをすると、人は不安やストレスを感じるようになります。
繰り返しますが、ヒトは“群がり動物”です。名前や約束を忘れるようになると、群れるための前提となる人間関係や社会性が崩れてしまいます。そのため、孤独に陥ることに、本能的な不安やストレスを感じるようになるのです。
孤独への強烈な不安とストレス
実験で、群れる習性を持つ動物を孤独へ追い込むと、凶暴になったり、ついには精神に異常をきたしたりするという報告もあります。それは孤独への強烈な不安とストレスの表れでしょう。孤独を避けることは認知症を防ぐうえで重要ですが、認知症の進行を緩やかにするという面でも、大きな意味があります。
認知症の患者さんには、「振り返り反応」や「同じ話題・質問を何度も繰り返す」といった症状が表れます。これも孤独などによる不安とストレスの表れだと考えられます。
「振り返り反応」とは、診察室で医者から何か質問されたとき、つき添いの家族や介護者などに確認をとるために振り返る反応です。もの忘れに気づき、認知症かもしれないと思っていても、健全だと装い、不安を打ち消すため、振り返って確認をとろうとするのです。
孤独で会話や活動が減ることによる
認知症リスクの高まり
「同じ話題を何度も繰り返す」のは、先の見えない不安な状況で、自分の相手をしてくれることが嬉しいので、昔の楽しかったことを繰り返し話したくなるのでしょう。また、もう忘れたくないという不安とストレスから逃れるために、確認をしているとも考えられます。
どちらも家族や介護者を困らせようと、意地悪でやっているわけではありません。こうした症状を抱える認知症の患者さんには、その背景にある感情を理解して、丁寧に寄り添い、会話を続けるように心がけてください。
群れることが難しくなると孤独が深まり、孤独化で会話や社会的な活動が減ると認知症の進行が速まるという悪循環に陥りやすくなります。それを断ち切るためには、「1人ではなく、味方がいる」というメッセージを患者さんに伝えることが大事です。それが認知症の進行を抑えてくれるからです。
※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。(文・監修/松原英多)