個人も組織も、学ぶことは大切ですが、もはや、それだけで十分ではありません。ビジネスでも、スポーツでも、同じスキルや戦略が、そういつまでも通用はしません。常に何かを学びなおさなければいけない時代になっています。その時代のキーワードこそ、アンラーンです。学びなおす力であるアンラーンを妨げるのは、過去に達成するのに役立ったが今では限界に達している行動や方法、つまり「成功体験」だったりします。セリーナ・ウィリアムズからディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASA…事例満載でアンラーンの全貌がはじめてつかめる本、『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)から、アンラーン戦略の重要ポイントを紹介していきます。(監訳:中竹竜二、訳:山内あゆ子)

禅僧Photo: Adobe Stock

先入観を捨て去った人だけが得られるとてつもないエネルギー

 脱学習することのパラドックスの例として完璧な、古いたとえ話がある。新しいことを学び、前進するためには、まずわれわれを引き止めている古い知識を手放さなければならない。ポール・レップスと千崎如幻は、禅と禅が現れる以前の著作物をまとめた『Zen Flesh, Zen Bones』という本に「一杯のお茶」という寓話を記している。

 明治期(1868~1912年)の日本の禅僧である南隠のところに、大学教授が訪れ、「禅」とは何かと尋ねた。

 南隠は客人にお茶を供し、器にお茶がいっぱいになってもまだ注ぎ続けた。あふれてこぼれるお茶を見ていた教授は、とうとう我慢できずに言った。

「禅師、お茶はもういっぱいです。もう入りませんよ」

 すると、南隠は言った。

「お前さんはこの器と同じなんですよ。お前さんの心は自分の考えや意見で満ち満ちておる。まずはお前さんが自分の心の器をカラにしなければ、私がどう禅を語っても、わかってもらえるはずがないではないか」

 新しい知識を器からこぼれるまで注ぐのは簡単だ。だが、新しい知識を取り入れるには、まずは器をカラにしなければならない。このたとえ話は、脱学習するためには、われわれは謙虚にならなければいけないことを思い出させてくれる。心をカラにして、過去の信念や行動を手放し、新しいことが入る余地をつくるのだ。

 同様に、新しい視点や展望や成功が欲しければ、まずは古い視点や展望、成功体験を手放さなければならない。気づいてほしいのは、あなたをここに連れてきたものは、これから行きたい場所にあなたを連れていってはくれないということだ。

 もちろん、手放すのは容易なことではない。積極的に現状を変え、意識的に、着実に、全力を挙げて実践しなければならない。リーダーやチームや組織が、何が成功をもたらし、何がもたらさないかについての先入観をかなぐり捨てたとき、とてつもなく大きなエネルギーが放出されるのだ。