そもそも今の「円安」は
騒ぎ立てる必要があるのか?

 さて、同対策は「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」および「成長のための投資と改革」を重点分野とし、「物価高騰・賃上げへの取組」「円安を活かした地域の『稼ぐ力』の回復・強化」「『新しい資本主義』の加速」および「国民の安全・安心の確保」を4本の柱として構成されている。

 各論に入る前に、円安という表現について、これは大いに誤解を招く表現であるし、特定の意図があって強調されている言い方である。なぜなら、実際にはドル需要の高まりによるドル高であって、各国通貨もドルに対して通貨安になっている。確かにドル以外の通貨に対しても円は安くなってはいるが、例えば、1ユーロは、本稿執筆段階の対円レートでは145円台であるが、2008年のリーマンショック前の段階では、高値で170円台を付けたこともあるし(筆者は欧州出張でユーロ高を身をもって体験した)、14年末には同じく高値で149円台になったこともある。つまり、対ユーロでは円安円安と騒ぎ立てるまでの状況ではないということだ(当時を振り返ってみれば、今ほどに騒いでいただろうか?)。ポンドも同様で、現在、英国は我が国同様に対ドルレートでのポンド安に悩んでいる。そのポンドも、リーマンショック前の07年には高値で250円台になったこともあり、その後リーマンショックまで1ポンド200円台で推移していいた。ロンドンの地下鉄初乗りが日本円で1000円と話題になった(筆者はオイスターカードという交通系ICカードを使うことで費用を抑えたが、それでも初乗りが日本円で800円程度であった)。そのポンドは、本稿執筆時点で1ポンド165円台である。

 全体として、とにかく金を使う気が全くないことが明らかな内容である。検討や予備費使用といった表現が目立つのは、急いでやろうという気がないということだろう。環境整備とは、総合経済対策でやる、書くような話ではない。完全に通常モード、平時モード、もっと言えば、お花畑モード。ただし、本物のお花畑ではなく、絵に描いたお花畑かお花畑の映像で自分たちを取り囲んでその気になっているといったところだが。

 その他にも、再エネを主力電源化しようとしている一方で、原子力については専門家による議論の加速化のみ、つまり本気で速やかに取り組む気がないことが明らかである。飼料や肥料についても国産化を推進する考えはないようだ。総合経済対策本文中に「~の連携」というのは関係者が自分たちでなんとかしろということであると考えられ、飼料や肥料の「生産」という言葉は全く出てこず、「供給・利用」とされていることからもそれがうかがえる。

「インボイス制度の円滑な導入を見据えた中小企業・小規模事業者への支援を実施する」という文章が唐突に出てくるが、これは総合経済対策とどんな関係があるというのだろうか。拙稿『納税免除ルールを無効化、財務省の「インボイス制度」が日本経済を破壊する』でも解説した通り、インボイスの導入は取引関係を硬直化させ、小規模事業者の負担を増大させるだけで、付加価値の向上とも全く関係がない。こんな無理矢理な作文をするとは、財務省も質が落ちたものだ。

「新型コロナウイルス感染症や物価高騰の影響を受けて厳しい状況にある事業者への資金繰りを支援する。あわせて、新型コロナウイルス感染症の影響の下で債務が増大した中小企業・小規模事業者の収益力改善・債務減免を含めた事業再生・再チャレンジを支援することで、過剰債務を克服し、未来につなげるべく、信用保証制度において、借換え需要に加え、新たな資金需要にも対応する制度を創設するとともに、資本性資金(劣後ローン)への転換による資金繰り円滑化等を図る。事業再生については、知見・ノウハウの集約・展開を図るとともに、地域交通等への重点的な支援を行う。個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策を年内に取りまとめる」とあるが、要するに債務免除をする気はないし、するなら事業再生をしろというめちゃくちゃな話であるということ。債務が増えて苦しんでいる事業者に事業再生や再チャレンジをしろとはなんと実情を理解していないことか。結局従前の中小企業淘汰(とうた)政策、M&A推進によりM&Aクラスターがもうかる政策の延長線上ということだろう。

 疲弊した観光地、観光産業を支援するのは総論としてはいいが、日本人による国内観光も含めてGDPに占める観光の割合は1%程度であり、日本はそもそも観光立国などではない。観光が一国の経済を支えているというような国をなんと呼ぶかというと、発展途上国、低開発国と言う。しかも観光はインバウンド頼みとは政策を完全に誤っている。日本人が、国民が普通に年に何度も旅行に、観光に行くことができるようにすることにこそ重きを置くべきである。