日本代表の失点につながった
選手たちの「欲」
勝ちにいった結果として引き分けに終わるのはかまわない、というプランも日本チームのなかで共有されていた。しかし、コスタリカの守備ブロックの周囲で、無難なパスをひたすらつなぐ展開で少しずつ足並みが乱れていく。ドイツ戦で同点ゴールを決めたMF堂安律(フライブルク)が言う。
「みんなの中で『この相手からは勝ち点3を取らなきゃいけない』という思いが、少しよぎってしまいました。ボールを持っていい場面で簡単に相手へわたすとか、ロングボールを蹴ってしまうとか。焦ってはいけないとわかっていたのに、結果だけを見ると相手のわなにはまってしまった印象がある」
堂安が代弁する形で言及した「この相手」や、あるいは「勝ち点3を取らなきゃ」はともに無得点のまま迎えた試合終盤で“欲”と化し、数々のミスが加わった末に失点に結びついてしまった。
日本から見て左サイドからの侵入を許した直後に、ロングボールを放り込まれる。これは後半開始から長友に代わって投入されていたDF伊藤洋輝(シュツットガルト)が頭ではね返し、近くにいたキャプテンのDF吉田麻也(シャルケ)もこぼれ球を間合いに収めた。
時間帯を考えれば、大きくクリアしてもいい場面。しかし、吉田は自陣のゴール前からボールつなぐ判断を下し、前方にいたMF守田英正(スポルティング)へのパスを試みた。しかし――。
「(ボールを)つなげると思いましたし、実際にスペースもありましたけど(パスが)高すぎました」
こう悔やんだ吉田が中途半端に放ったロビングのパスは守田に合わないどころか、前へ出てきたコスタリカの選手に奪われそうになる。ボールの落下点を目指しながら、守田はスライディングでボールを前方へ蹴り出す判断を下す。結果的にこれが仇となった。守田がこう振り返る。
「相手よりも早くボールに触ってクリアする意図でした。結局、僕が死に体の形になって入れ替わられてしまったので、あそこは落ち着いて正対するような選択ができたんじゃないかと」
思惑通り先にボールへ触ったのは守田だった。しかし、目の前に迫ってきていた相手に当たり、無情にも日本のゴール前へと弾んでいく。しかも、スライディングした直後の守田は対応できない。
最初のロングボールの標的だったDFケイセル・フレールへ、すかさずスルーパスを通される。しかもはね返した後に緩慢な動きを見せ、ラインを押し上げていなかった伊藤が反応できない。
右足のトラップから、間髪入れずにフレールが左足でコントールショットを放つ。GK権田修一(清水エスパルス)が必死に両手で触ったものの、ボールは日本ゴールに吸い込まれてしまった。
結局、コスタリカが放った枠内シュートは唯一の得点となったこの1本だけだった。トータルでもわずか4本だったのに対して、日本は3倍以上の14本のシュートを放つもゴールは遠く、ナバスの牙城を崩せなかった。MF鎌田大地(アイントラハト・フランクフルト)が言う。
「僕を含めて、イージーなミスがすごく多かった。特に僕自身は、あのようなミスをしてはいけない選手だと思っているのに。ただ、あれだけコンパクトでアグレッシブに守られると、どうしても苦戦してしまう。これが国を背負って戦うものなんだとあらためて思いました」
鎌田の言葉に、敗因が凝縮されている。引き分けでイコール、実質的な終戦を迎えるのはコスタリカの方だった。ともに無得点の状況が続けば必ず前へ出てくる。それでも必死に自重し、例えるならば我慢比べが展開されていた終盤で日本はミスを連発。決勝点を献上してしまった。
自国のメディアと断絶状態になってまでも、意地と誇りを貫いたコスタリカにはぶれない強さがあった。対照的に勢いに乗るはずだった日本は、ナイーブな一面をのぞかせてしまった。
劇的な勝利をもぎ取ったドイツ戦から、日本は先発の顔ぶれを5人も代えた。日本国内や海外メディアでは驚きを持って受け止められたが、これを「コスタリカをなめている」や、あるいは「ベストメンバーで連勝を狙うべきだった」という批判に置き換えるのは的を外れている。
カタールW杯ではグループステージの3試合を、すべて中3日の過密日程で戦う。特にドイツとの初戦では心身ともに消耗が予想されていただけに、森保一監督はメンバーを入れ替えながら戦う、いわゆるターンオーバーを導入すると早い段階から明言していた。
大会を勝ち抜いていくための青写真は、ドイツから大金星をもぎ取っても変わらない。吉田は5人の入れ替えについて「もともと想定していたこと」とコスタリカ戦後に言及している。
「ターンオーバーのために全員がチームのコンセプトをしっかり共有し、準備を積み重ねてきた。FWもフレッシュな選手を入れるという狙いがあったと思うし、特に難しさは感じませんでした」
前半の終盤でシステムを[4-2-3-1]から[3-4-2-1]へスイッチ。さらに後半に入るとFW浅野拓磨(ボーフム)、MF三笘薫(ブライトン)、MF伊東純也(スタッド・ランス)、MF南野拓実(モナコ)と攻撃的な選手を次々と投入したが、引いた相手を最後まで崩せなかった。
森保ジャパンはアジア予選の段階から、守備を固めてくる相手を攻めあぐねてきた。加えて、カタールW杯に臨むメンバーを見れば、攻撃は左の三笘、右の伊東とタイプの異なるドリブラーの個人技に依存する。実際、コスタリカ戦の終盤には三笘の突破から立て続けにチャンスを作った。
依然として得点の可能性をまったく感じさせなかったセットプレーを含めて、森保ジャパンが抱えてきた課題が図らずも露呈して黒星につながった。もっとも戦いの舞台がW杯であり、ドイツに勝った直後で注目度が一気に上がったがゆえに、心ないバッシングが起こってしまった。
特に批判の標的となったのは、長友に代わって投入された伊藤だった。三笘が警戒されていた状況もあるが、前方にいる攻撃の切り札へなかなかパスを出さない。味方へ下げる選択肢が目立った展開で、伊藤のSNSには「バックパスマシン」や「戦犯」といったコメントが殺到した。