大手プラットフォームもサービス強化
今後の課題は稼げる仕組みの構築

 ただ、チャンスの機会が増えるだけではなく、作品の評価が作り手に還元されるような制度に、つながっていくことを前田氏は期待する。

「現在のニーズをきっかけにクリエイターが名を上げやすくなるのはいいのですが、これを機にショートフィルムでも食えるような仕組みやサービスができることを期待します。さまざまな業界の構造上、多くの映画の作り手は本当に稼げない。長編映画の監督でも、そこまで余裕のある生活はなかなかできませんから、作品を配信するプラットフォームがそれなりにクリエイターに還元し、短編映画でも食っていけるような仕組みになってほしいですね」

 冒頭で紹介したアプリ「SAMANSA」が、高品質なショートフィルムの配信では先を行っていると思われるが、今後はさらにショートフィルムをめぐる攻防が繰り広げられると前田氏は予想する。

「ある程度のストーリー展開と、クリエーティビティーの発揮のためには、どうしても5分ほどの尺は必要なので、大手プラットフォームなどでは今後、ショートフィルムのようなコンテンツも配信できるようなサービスを整備していくのではないでしょうか。例えば、YouTubeはショート動画でも収益化できる仕組みを導入し、クリエイターの囲い込みを図っています。また、動画の再生時間が15秒~数十秒だったTikTokも3分まで可能にするなど、徐々に再生時間を延ばしています。国内では『SAMANSA』が高品質なショートフィルムを先んじて配信していますが、そのような作品を抱き込んでいこうと各社がしのぎを削るようになるでしょう」

 実際、TikTokと東宝は新たなクリエイターを発掘し、映像を共創することで映画業界を盛り上げようと『TikTok TOHO Film Festival 2022』を2022年に開催。他にも『カメラを止めるな!』の監督である上田慎一郎氏がTikTokで縦型ショートフィルムを公開するなど、その機運は高まっているといえる。

「今後は、数十秒の超ショート動画を元にショートフィルムを作るという流れが増えてくるでしょう。作り手は映画関係者とは限らないため、これまでの映画の基本とは異なる作り方をする。新しい表現方法も生まれ、これまでに見たこともない映像作品が増えるでしょうね。ショートフィルムの需要は落ちませんから、作りたい人はどんどん参加したらいいと思います」

 ショートフィルムを含めたショート動画市場は、まだまだ広がる。新たなビジネスチャンスがあるかもしれない。