忙しい人ほど
「忙しい」とは口にしない
たくさんの方に取材をしていて気づいたことのひとつに、忙しい人ほど忙しいと言わない、というものがあります。どう考えても忙しいはずなのに、「お忙しいですよね」と聞いても、「いやいや」と返答があったりする。
以前、日本を代表するグローバル企業の元CEOの連載記事を、月刊誌で6年間、担当したことがありました。毎月のようにお伺いするのでいろいろな話を聞くことができ、プラベートでも食事をさせてもらったりと、貴重な機会をいただきました。
CEO退任後、自ら起業されていたのですが、スケジュールシートは前職と同じものを使われていました。A3用紙1枚に1ヵ月の日付が並んでおり、そこに予定がエンピツで書かれているのです。
実際のスケジュールを見せてもらうと、これがとんでもないほどの過密状態でした。ミーティングや取材、社外取締役を務めている会社での取締役会、海外出張、夜の会食、はたまた週末のゴルフと、文字通りビッシリ。
猛烈に忙しいことは間違いないのに、彼の口から忙しいという言葉を聞いたことは一度もありませんでした。むしろ、涼しい顔で楽しげに働いておられるのです。
このとき私が決めたのは、忙しいという言葉はもう二度と口にすまい、ということでした。本当に忙しい人は、忙しいなんて口にしないのだ。それに比べれば、私の忙しさなど、全然大したことないじゃないか、と。
実のところ、私はこの世界ではかなりの量の仕事をしていることで知られているようです(笑)。「お忙しいでしょう」とよく言われるのですが、彼とお会いして以降、この程度で忙しいなどと言ってはいけない、と思うようになっていきました。