公開前炎上、何があったのか

 まず、おさらいである。映画版『スラムダンク』公開前に、何が炎上したのか。
 
 とりわけ話題になったのは、「前売り券発売後の声優発表」であろう。映画版『スラムダンク』はアニメということで、かつてテレビで放映されていたアニメ(1993~1996年)の声優がこの新作映画も続投するもの……とみていたファンは多かった。
 
 しかし、前売り券の発売開始後に「前アニメとは声優陣を一新します」と発表され、前アニメ版の延長を念頭に思い描いていたファンが「だまされた」と感じ、怒り、炎上したのである。
 
 また、井上雄彦氏の公式サイトに載せられた映画版制作者のインタビューの中に、「原作をよく知らない」や原作へのリスペクトを欠くような発言があったことが散見され、これにも批判が集まった。
 
 とにもかくにも新作映画版への期待値が尋常でないほど高く、軌道計算をミリ単位でも誤れば宇宙の彼方に吹っ飛んでいってしまいそうなリスクが最初からあった。そして順当に計算ミスは起きて、公開前のプロモーションは何をやっても逆風という雰囲気になってしまった。本当ならファンの期待をあおるために仕掛けられた各種プロモーションも、すべてが裏目となって受け止められたのである。

一抹の不安を胸にいざ鑑賞へ、率直な感想

 筆者は『スラムダンク』を少年ジャンプの連載で読み、連載終了後は同作品の作者である井上雄彦先生の『バガボンド』と『リアル』を、単行本を買って追っていた程度のファンであった。熱狂的というには程遠いが、そこそこの熱意はあったといえようか。
 
 そこに今年の新作映画版『スラムダンク』公開予定の報を聞き、筆者は心配であった。漫画原作者と、その原作をこよなく愛した熱狂的なファンの両者が、作品や作品のキャラの解釈を巡って対立しはしないか……と案じたのである。
 
 筆者も、公開前の評判の悪さもあり、映画に対するポジティブなイメージが持てなかった。公開前のネガティブなムードそのままの内容であったら……と、一抹の不安を胸に映画館へ足を運んだ。
 
 ここからは実際に見ての感想である。もしつまらなかったら正直に「つまらなかった」と書く覚悟であったが、単刀直入に、ものすごく面白かった。期待していないどころかマイナス評価を予想していたことを謹んでおわび申し上げたい。

 さて、どこが面白かったか。
 
 一応ここでは公式リスペクトでその内容を語らないでおくとするが、原作を「面白かったことは覚えているけれど細部はよく覚えていない」くらいの記憶力の筆者には、とりわけ面白いものであった。
 
 オープニングで、主人公たち5人の造詣がひとりずつ、少しずつ描かれて完成とともに動き出すシーンがあり、制作サイドの思い入れの強さと「ファンを喜ばせたろう」的な意図が見えて少し恥ずかしかったのだが、恥ずかしさと同時に、筆者は正直に「あの5人にまた会えた」と感動する自分を発見して、驚いた。

 まさか自分が、漫画のキャラに“会う”などという感想を持つとは思いもしていなかったからである。どうやら筆者も、それなりに『スラムダンク』という作品を愛していたようであった。