リアルな人間ドラマと圧巻のバスケシーン
物語は主にドラマパートと試合パートが交互に出てくる形で進んでいく。ドラマパートは『リアル』の作中に見られるような重厚な人間の物語であり、重苦しい現実生活の中に救いの光を求めてあがく人間の生きざまが描写され、胸に迫ってくる。
試合パートは、もうがっつりバスケである。この見ごたえがすさまじかった。一時期NBAにハマってよく見ていたが、それに迫るスピード感と臨場感である。
現実のバスケの試合は俯瞰(ふかん)映像と、コートサイドからの映像が組み合わせられて放送されるが、映画版『スラムダンク』ではこれに加えて、アニメならではの描写が加わって迫力の青天井であった。また、コート内の空気感も非常に心地よく、「コートに立ったらこんな感じに緊張するのかな」ということを自然と思わされた。
公開前の前評判では「ユニホームの質感がペラペラ」「背景が手抜き」などと大変な不評を呼んでいた試合シーンの映像については、本編を見て「これでいいのだ!」と大いに納得した。
映画版『スラムダンク』はCGアニメだが、動きはヌルヌルしておらずむしろカクカクしていて、一枚絵が長めに使われることがしばしばあった。これによって、「ヌルヌル動くアニメ」というよりは、「結構動く静止画(漫画)」といった趣になっている(動きが必要なシーンではちゃんとふんだんに動いてくれる)。
原作では、キャラの体温まで伝わってくるかのような筆致の、高い画力もまたひとつの魅力だったが、映画版はその漫画の格好良さがうまく映像に落とし込まれていると感じた。だから、映画では試合中の選手に描き込まれた多量の汗が微動だにしないのだが(その汗も折を見てしたたる)、そのシーンだけ切り取って見るとアニメーション的ではなく漫画のひとコマ的なので、気にならず、むしろかっこいい。
聴覚的な要素も、原作ファンを想像以上に興奮させたはずである。直接耳で聞くドリブルの音やバッシュがこすれる音、観客の声援などは、やはり漫画で擬音の文字を目にするよりも臨場感があった。