原作ファンにはぜひ勧めたい作品

 結局2時間を超える上映時間をまったく退屈することなく作品に没入して過ごした。終演後は大変な満足感とともに帰路に就いたのだが、胸に何かエモい気分が漂っていて、しかもその感覚がどこかで味わったことのあるものなのである。これはなんなのだろう、と考えているうちにようやくわかった。同窓会に参加したあとの帰路に酷似するせつなさだったのである。
 
 再会の興奮と、同窓会が終わってまた別れることの切なさと、振り返ってみて再会できてやはりよかったと喜ぶ気持ち……などが、鑑賞後に一気にやってきた。これは昔、原作版『スラムダンク』が好きだった人たちなら、およそ感じる感覚であろう。
 
 平日の昼12時の映画鑑賞だったが、お客さんの入りはかなり順調そうであり、他のお客さんは筆者と同年代(1980年生まれ)か、もしくはそれより上の人が多かった。昔からのファンが多いのであろう。なお公開2日間で動員約85万人、興行収入が約13億円とのことである。
 
 かくして映画版『スラムダンク』は、あの空前絶後のネガティブ前評判を覆し、高評価を獲得しえているのである。映画情報サイトのFilmarksでの同作品の評価はすこぶる高く、星4.4となっている。
 
 筆者は大満足の作品であったが、前アニメファンの人には注意を促したい。本作の声優さんの演技は素晴らしかったと感じているが、前アニメの声優さんの演技が頭にあって、また本作を「前アニメとは別作品」として受け止める心づもりがない限り、本作は「アニメとぜんぜん違う」と不満に思えてしまうかもしれない。
 
 また、「描かれてほしい原作にあったセリフやエピソードが、映画版ではたくさん省かれていて満足できなかった」といった声もあったようである。これはディープなファンならではの苦悩であろうか。
 
『スラムダンク』を知らない人でも十分に楽しめると思うが、原作ファンにしか感じられない感動がある。原作『スラムダンク』に青春を感じて読み込んだ原作ファン諸氏に、ぜひ勧めたい作品であった。