政府が「甘やかし保護してきた中小企業」に見る問題

 日本経済が成長できなかったのはこの30年間、日本人の賃金がまったく上がらなかったからだ。そして、この問題は、大企業の春闘やベアがどうしたとかいう話はほとんど関係がない。

 日本人労働者の7割が働いて、全企業の99.7%を占める中小企業の賃金がこの30年間ほとんど上がっていないからだ。では、なぜ上がらないのかというと、日本政府が中小企業を「保護すべき弱者」として過剰に甘やかしてきたからだ。

 厳しい言い方だが、各種優遇策や補助金やらで手厚く保護されてきたことで、まるで生活保護を受けている経済的困窮者のようになり、成長・拡大をするように追い込まれなくなってしまったのである。もちろん、中には競争力があって成長をしていく中小企業もあるが、それはほんの一部で、大多数の中小企業は「現状維持型」なので従業員の賃上げができない。

 なぜこうなるかというと、株主など外部の厳しい目にさらされることがないので、オーナー社長が好き勝手に経営ができてしまうからだ。自分が乗る高級車を社用車扱いにしたり、働いていない妻や子どもに役員報酬を払ったり、やりたい放題ができてしまう。

 そんな「現状維持型の低賃金企業」があふれる日本の中小企業に、大量の補助金がバラ撒かれたところで、経済が成長するわけがない。コロナ禍で飲食店にバラまかれた協力金が、経営者の懐に入って、店で働くパートやアルバイトにほとんど還元されなかった構図と同じだ。

 日本ではこのような「負のスパイラル」が30年間延々と繰り返されてきた。労働者の賃金よりも経営者の身分保障を優先してきた結果、格差が広がって消費が冷え込み、それを受けて企業は賃金を低く抑える…という悪循環が続いてきた。

 本来はこれを断ち切らないといけない。しかし、「貧しいニッポン」報道があふれかえるとそれも不可能になる。

「貧しい」と言われてパニックになった群衆は、「貧しくならないようにもっと金をよこせ」と減税やバラマキを掲げる政治リーダーを求めていく。金をバラまいて経済が強くなった国など世界のどこにも存在しないが、貧しくなるという恐怖に支配されて、冷静な判断ができなくなってしまうのだ。

 なんてことを心配したところで、おそらくこの流れは食い止められない。

 80年前、当時の軍部のエリートや、政府の人間が「アメリカと戦争をしたら100%負ける」という分析をしていたにもかかわらず、日本は無謀な戦争に突入した。

 この件に関して、後世の日本人は「軍部が暴走した」「政治が悪い」の一言で片付けるが、実はそれは歴史の捏造だ。誰よりも戦争を望んでいたのは、実は「国民」である。当時、「アメリカを叩きつぶせ」と大衆は熱狂していて、政治家や軍部が「日米開戦を避けよう」なんて言えば、「腰抜けが!」と怒った。熱狂で冷静な判断ができなくなっていたのだ。実際、真珠湾攻撃をした時、日本はサッカーワールドカップでスペインを撃破した時以上のお祭り騒ぎだった。

 こういう歴史の教訓に学べば「貧しいニッポン」は避けられないだろう。いよいよ来年は、我々も貧しい国なりの生き方を、模索していかなければいけないかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)