創業9年目で売上300億円と、急成長を遂げている家電メーカー、アンカー・ジャパン。そのトップに立つのは、27歳入社→33歳アンカーグループ最年少役員→34歳でアンカー・ジャパンCEOに就任と、自身も猛スピードで変化し続けてきた、猿渡歩(えんど・あゆむ)氏だ。「大企業に入れば一生安泰」という常識が崩れた現代、個人の市場価値を高めるためには「1位にチャレンジする思考法」が必要だと猿渡氏は語る。そんな彼が牽引してきたアンカー・ジャパンの急成長の秘密が詰まった白熱の処女作『1位思考──後発でも圧倒的速さで成長できるシンプルな習慣』が発売たちまち話題となっている。
そこで本書の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みを猿渡氏にぶつける特別企画がスタートした。第7回目は、「ベンチャー企業がぶつかる成長の壁」について、教えてもらった。(構成・川代紗生)

1位思考Photo: Adobe Stock

ベンチャー企業がぶつかる「成長の壁」

──アンカー・ジャパンは、2013年1月の創業以来、売上を伸ばし続けています。
 なかでも猿渡さんは、売上9億円を300億円にしました。実に、30倍以上です。
 今もその過渡期だと思いますが、ベンチャー企業ならではの「壁」を感じることはありますか

猿渡歩(以下、猿渡):難しさを感じたのは、「組織づくり」です。

 創業初期は、メンバーも数人程度と少なく、同じ熱量を持ったメンバー同士で仕事ができるため、コミュニケーションを取りやすい。「あれをやろう」「これをやろう」と細かく伝え合わなくても、あうんの呼吸でスピーディに動くことができます。

1位思考

──創業初期は、経営者と従業員の距離も近いため、メンバー全員にビジョンが伝わりやすいですよね。

猿渡:しかし、企業が成長し、メンバーが10人、30人、50人、100人……と増えてくると、以心伝心のコミュニケーションはできません。

「言わなくてもわかり合えていたこと」を明文化しなければいけなくなります。

 会社が大きくなればなるほど、社員も増え、いろいろな性格・価値観の人が共に働くようになります。だからこそ、それぞれの適性を活かせる仕組みづくりが必要でした。

 とはいえ、ルールづくりに注力しすぎると、今度は、会社全体のスピード感が落ちてしまう。どこに注力すべきなのか、そのバランスを推し量る難しさは、いまだに感じています。

 また、組織が大きくなるにつれ、各メンバーにどんどん仕事を任せていきますが、これも塩梅が難しい。

 時には、裁量権を与えたものの、その人には実は負担が大きく、スケジュールどおり進んでいなかった……というトラブルも起こります。

カギとなる「期待度」と「満足度」の調整

──多くの管理職が抱える悩みですね。でも、積極的に任せないと、新しい仕事が回らない……。

猿渡:私も、試行錯誤中です。ただ、一つ気をつけているのは、『1位思考』の中でも触れた、「期待度」と「満足度」の調整です。

 従業員に対し、期待度を低く設定し、実力以下の仕事ばかり任せていると、確実にモチベーションが下がります。

 かといって、期待度を高く設定しすぎると、疲れてしまう。ミスをしたとき、「任せてもらった仕事で結果を出せなかった」と、深く落ち込んでしまうかもしれない。

──たしかに、バランスが本当に難しいですね。

猿渡:はい。だから、基本的には、本人の実力よりも少し上、背伸びしたら届くくらいの「期待度」を設定するのが一番いいと思っています。

理想的な組織になるまでの「5つの段階」とは?

──ベンチャー企業が成長する過程では、創業メンバーと新メンバー間で温度差が生まれやすいと思います。
 創業メンバーの熱量についていけず、新しい人がどんどん辞めてしまうというケースもよく耳にしますが、猿渡さんは、企業の成長期における人材の入れ替わりについてどうお考えですか?

猿渡:1位思考』でも「タックマンモデル」という組織フレームワークを紹介しましたが、私もチームビルディングの参考にしています。

 心理学者のタックマンによれば、チームは、次の「5つの段階」を経て理想的な組織に成長していきます。

1.形成期
2.混乱期
3.統一期
4.機能期
5.散会期

【創業9年で売上300億円】急成長で「空中分解する会社」と「団結する会社」の決定的な違い(『1位思考』169ページより)

猿渡:この図のとおり、チームのパフォーマンスが最も高くなる「機能期」は、4段階目に設定されています。

 つまり、いきなりチームが思うように機能することはない、ということです。

 お互いのことを少しずつわかり合う「形成期」、必要な対立があることを理解する「混乱期」、目指すべき目的や目標を共有する「統一期」という3つのフェーズを経て、ようやく4段階目の「機能期」にたどり着けるのです。

──たしかに、メンバー全員が最初から各々のパフォーマンスを発揮し、互いに協力し合えることはないですよね。

猿渡:はい。チームづくりは時間もストレスもかかる作業です。

 チームを統括するマネージャーが、チーム発足時から「機能期でなければならない」と思い込むと、余計にうまくいかなくなります。

 スタートアップ期は、やるべき仕事内容も目まぐるしく変わっていきます。

 売上が10倍になったら、単に人材を10倍に増やすのではなく、仕事の進め方を変えなければならない。そしてその変化に社員も順応できることが必要です。

 だから、私は、人材がまったく入れ替わらないことがベストだとは考えていません。仕事に求めているものは各個人で違いますし、企業の成長フェーズによって必要な人材の入れ替わりもあると思います。

──「入れ替わりが激しい」ことに対し、ネガティブな印象を抱く人もいるかもしれませんが、企業の成長フェーズによって業務内容も変化するので、その都度、人が入れ替わるのは、自然なことかもしれませんね。

猿渡:なかには、ベンチャー企業の立ち上げ期に携わるのが好き、という人もいます。

 組織がある程度成長したら卒業し、また別のベンチャー企業へ転職していく……というパターンもあります。

 アンカー・ジャパンには、「共に成長しよう」というバリューがあります。

 この先にも達成すべき大きな目標があり、今後もスピーディに変化していきます。

 どのフェーズでも、企業の成長とともに、個人も成長していける。

 そんな組織づくりを今後もしていきたいですね。

(本稿は『1位思考』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)