日本の産業を新たなフェーズへ導くデザインの力

「デザイン経営」が効く企業、効かない企業

 もう一つ、経営の中にデザインを組み込む際に語られる効果がある。それが経営の補佐役としての役割だ。スティーブ・ジョブズがデザイナーのジョナサン・アイブを右腕としたように、CDOはCEOの良き補佐役になる。なぜなら、デザイナーはユーザー理解について考え尽くし、それらを一つの価値へと統合することにたけており、まさに企業統合の最終責任者であるCEOに大局的な助言ができる存在たり得るからだ。

 また、先ほど部品装置産業や素材産業ではデザイン経営の優先度が低いと述べたが、実はこうした領域にもユニークな事例はある。例えば、広島市を拠点とするモルテンが好例だ。同社は一般的にはバスケットボールやサッカーボールなどのスポーツ用品で知られているが、主力事業として自動車部品製造などのビジネスも抱えており、それらは先述したようにデザイン経営の恩恵を受けにくいカテゴリーにある。それでも積極的にデザインに取り組む理由として、同社CEOの民秋清史氏は「エンジニアを中心とした超クリエイティブな集団を作る」という意志を表明している。

 日本は、秀でた技術を持つものづくり企業が高密度で存在する国だ。これらの企業が抱える優秀なエンジニアたちが、高いデザインスキルを身に付けることができれば、付加価値の高いものづくりへの打ち手の一つとなるだろう。「デザイン経営」のコンテクストからはやや外れるが、個人的には大きな可能性を感じる領域である。

 以上のように「デザイン経営」と一口に言っても、企業の立ち位置や個性によって、取るべきアプローチはさまざまだ。次回以降、デザイン経営に先駆的に取り組む企業の実例を、主に具体的な取り組みとその背景に着目して多角的に紹介していきたいと考えている。これからデザイン経営を導入しようという経営者やマネジャーに参考にしていただければ幸いだ。