情報が次から次へとあふれてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍のメッセージをご紹介していきたい。
第7回は2008年に刊行、アメリカの広告業界で58年も活躍し続けた伝説のコピーライター、ジョン・ケープルズの『ザ・コピーライティング――心の琴線にふれる言葉の法則』(神田昌典監訳)。4話に分けてお届けする。(文/上阪徹)
>>前回記事「同じ内容なのに「スルーされる言葉」と「人を動かす言葉」との決定的な違い【効果検証済】」はコチラ

【効果絶大】「ハズさない見出し」に共通する14のポイントPhoto: Adobe Stock

効果の出る広告、出ない広告の違いとは?

 アメリカの広告業界で58年間も活躍し続けたコピーライターが1932年に原書初版を刊行、その後4度改訂され、今なお90年以上も読み継がれている『ザ・コピーライティング』。2008年刊行の改訂新版もロングセラーとなり、12万部を超えるベストセラーとなっている。

 著者のジョン・ケープルズが持っていたのが、テストを繰り返し、効果を検証する「科学的広告」への強いこだわりだった。

 そして本書から強烈に受けるメッセージは、その認識さえあれば、広告にはモノやサービスを売るうえで途方もないポテンシャルが潜んでいる、ということだ。

 ある通販の広告が、同じ製品を宣伝しているもう1つの広告に比べて2倍、3倍どころか、19.5倍もの売上を実際にもたらしたケースを私は知っている。この2種類の広告はどちらも同じサイズで、同じ雑誌に掲載された。両方ともビジュアルには写真が使われ、コピーは細部までよく練られたものだった。違いは、一方が的を射た訴求をしていたのに対し、他方は的外れの訴求をしていた点だった。(P.44)

 訴求ポイントがズレてしまえば、どんなにカッコイイ文章や美しいコピーが書けたところで、広告効果は得られないのである。しかし実際には、その肝心な訴求ポイントがズレてしまいがちだ。

 せっかく大きなポテンシャルを持っている広告なのに、それが活かし切れていないことこそに、問題がある。そんな点も、ケープルズは鋭く指摘する。

 広告が失敗する原因で1番多いのは、クライアントが自社の業績(世界一の芝の種です!)をアピールすることで頭がいっぱいで、消費者がその商品を買ったほうがいい理由(世界一見事な芝生がご自宅に!)を伝えていないからだ。(P.145)

 うまくいく広告は、「買い手にとって1番いいこと」に焦点を当てている。「売り手にとって1番いいこと」に焦点を当てた広告が、うまくいくはずがないのである。広告の作り手はわかっているつもりなのに、これをやってしまうのだ。

「ハズさない見出し」14の訴求ポイント

 本書でケープルズが言おうとしている「コピーライティング」は、単に言葉を発想したりする表面的なものではない。もっと本質的なものだ。その本質さえつかんでおけば、広告の効果は大きく変わる。モノやサービスはもっともっと認知され、支持される。

 にもかかわらず、言葉や表現などの表面的なものに気を取られ、本質が忘れ去られている広告がいかに多いか。逆に言えば、プロのコピーライターでなくとも、訴求ポイントを間違えなければ、効果的な広告を作ることができる、ともいえる。

 広告で何よりも重要なのは訴求ポイント、つまり購入してもらう理由だ。見出しが重要というこれまでの説明と矛盾するように感じるなら、思い出そう。見出しと訴求ポイントはまったく同じものなのだ。効果のあった広告では、訴求ポイントはまず間違いなく見出しで述べられている。(P.147)

 そしてケープルズは驚くべきことに、売上をアップし続ける効果的な訴求ポイントの14の例本書で掲げている。これは広告の訴求ポイントをハズさないうえでの、大きなヒントになるだろう。

◆収入を増やす
◆お金を節約する
◆退職後の生活の安心
◆もっと健康に
◆医療対策
◆老後の安心
◆仕事やビジネスで成功する
◆名声
◆喜び
◆家事をもっと楽に
◆もっと余暇を
◆快適さ
◆脂肪を減らす
◆心配から解放される(P.147~148)

 これ以外にも、「みんなと同じ」でいたい願望、お買い得品をあてにする気持ち、人気者になりたい、注目されたいという願望なども挙げられている。

「どう言うか」よりも「何を言うか」が重要

 広告コピーについて、もっと端的にケープルズが言おうとしていることを書くなら、これだろう。「どう言うか」よりも「何を言うか」のほうが重要。ケープルズは、ある中古車ディーラーの新聞広告の例をもとに、こう書き記している。

 商売をもっと繁盛させようと「より価値ある車」「低価格で長寿命」といった見出しのイメージ広告を出した。縁取り処理や厳選された書体を使った、見事なレイアウトの広告だったが、効果は出なかった。大失敗だった。

 そこで、コピーを変えてみた。お買い得車を具体的に取り上げて、その車の型、製造年、販売価格をコピーにはっきりと入れた。この広告は、通販広告のように、人気カタログのなかにセットされた。成果はすぐに現れた。この広告には3倍もの数の反応があったのだ。
 これは典型的な例だ。この例からも、洗練された言葉や見栄えのいいレイアウトは、それだけでは効果的な広告にはならないことがわかる。(P.160)

 この文章を書いている私自身、コピーライターから書くキャリアを始めたと先に書いているが、実は広告コピーの世界を勘違いしている人は少なくない。広告コピーに何より必要なのは、美しい言葉を紡ぐことではない。確実に効果を生み出せる訴求ポイントを設計することなのだ。そうでなければ、効果は出せないからだ。

 そしてケープルズは、効果的な訴求ポイントを見つけて活用せよ、と説く。

 活用するテクニックは、次の4つの基本ステップにまとめられる。
1●単なる「感覚」ではなく、根拠のある訴求ポイントを選ぶ。
2●異なる訴求ポイントをいろいろテストしてみる。
3●結果分析に基づいて、1番いい訴求ポイントを決める。
4●これと決めた訴求ポイントをメインにして、新聞・雑誌広告、テレビ・ラジオコマーシャル、ダイレクトメール、屋外看板など、ありとあらゆる媒体に活用する。(P.161~162)

 まずは訴求ポイント。この気づきは、広告効果を大きく変えるものになるはずである。

(本記事は『ザ・コピーライティング 心の琴線にふれる言葉の法則』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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