リーダーなどの役職に初めて就いた際、難しく感じることの一つが「評価」だ。評価は昇給やボーナスなどの報酬に直結しているため、方法を間違うと部下が評価に納得しなかったり、平等に評価できないことにつながったりしかねない。『リーダーの仮面』の著者で、株式会社識学の代表取締役社長である安藤広大氏は、「好き嫌いをなくし、正しく客観的に評価することを徹底する」ための一つの結論として、「プロセス(過程)は評価しないこと」と指摘する。現代では、「プロセスを褒める」ことを是とする人が多い中、なぜ安藤氏はプロセス評価を否定するのか。本記事では、その理由や正しい評価をするポイントなどについて、本書の内容をもとにご紹介する。(構成/神代裕子)

リーダーの仮面Photo: Adobe Stock

会社では「プロセス評価」をしてはいけない

「褒めて伸ばそう」「プロセスを評価しよう」

 こういった考えは、子育ての方法として取り上げられ、一般的になってきた。

 この話を会社での上司部下の関係にも当てはめたのが、現在のプロセス重視のマネジメント方法であり、取り入れている会社も多いだろう。

 実際、評価される側も「私は褒められて伸びるタイプなので」「結果は奮わなかったけれど、ここまで頑張ったので評価してほしい」と主張する人は少なくない。

 しかし、『リーダーの仮面』の著者である安藤広大氏は、プロセス評価を真っ向から否定し、「小学生向けのマネジメント方法が、会社組織に当てはめられていることが問題」と言い切る。

 その理由はなぜなのだろうか。

「褒められないと頑張れない」を許さない

 まず、安藤氏は「仕事は勉強とは本質的に異なる」と説明する。

仕事では、給料やボーナスという「目に見える成果」を受け取っています。生きるために働き、生きるために給料を得ていることが結びついているはずです。やる意味がよくわからないまま勉強しないといけない小学生と、生きるために働いている会社員とでは、管理方法がまったく異なるのが当然です。(P.204-205)

 給料として成果を得ている以上、その給料に見合う結果を出すのは当たり前のことということだ。

 確かに、当たり前のことをしているだけなのに、「褒められないと頑張れない」というのはいかがなものだろうか。

「プロセス評価」で部下の認識がズレる

 また、プロセス重視の評価をすると、ある弊害が発生するという。それは「残業アピール」だ。

 頑張っている姿を褒めるのであれば、「遅くまで働いている部下」も褒めなければならなくなる、と安藤氏は指摘する。

 上司が残業している部下を褒めると、どうなるだろうか。

「上司がいるときは残業した方が有利だ」「結果が出なくても、『遅くまで頑張っている』と言えばいいんだ」そのような思考になります。リーダーが残業を評価している気がなくても、ちょっとした言動によって「評価されている」と部下に思わせてしまうことになり、認識のズレが生じるのです。(P.206)

 このようなことに陥らないためには、「プロセスへの介入は一切やめて、結果だけを管理する」ようにすれば良い、と安藤氏は語る。

 確かに、「結果は出ませんでしたが、私は頑張りました!」という主張をいちいち評価していては、言った者勝ちになってしまう。

 あくまでも、評価の基準は結果であるべきなのだ。

「あたりまえ」の基準は高く保つ

 褒めることによる弊害も大きい、と本書では語られている。その理由はこうだ。

人間の意識構造上、褒められたときに、「その少し下のところ」が「あたりまえ」の基準になります。70点を取った人を「すごいね」と褒めると「60点くらい」が、80点を取った人を褒めると「70点くらい」が、「あたりまえ」になる感覚です。そうであれば、「あたりまえ」は100点に設定しておく必要があります。(P.212)

 筆者も会社員時代はリーダーを経験したことがあったが、実際、与えられた業務を問題なくこなすという、「あたりまえ」のことをしただけで「評価してほしい」と主張してくる部下は少なからずいた。

「評価されるべきは、あたりまえ以上のことをしたときだ」と説明しても、なかなか納得を得られなかったことを思い出した。

 これを徹底するためには、リーダーの普段からの立ち居振る舞いも重要なのだそうだ。

仮面をかぶり、簡単に「よくやった」「すごい」と言わないようにしましょう。「褒められて伸びるタイプなんで、褒めてくれないとやる気が出ない」 そんなことを言う若手社員がいます。しかし、先ほどの小学生ではないですから、学生ではなく社会に出た会社員である以上、褒められて伸びるタイプを認めてはいけません。(P.213)

「リーダーの仮面」をかぶり、淡々と評価する。その姿勢を貫き通すことが大事なのだろう。

リーダーがすべきは「点」と「点」の管理

 では、リーダーはどのようなマネジメントをしなければならないのだろうか。

 安藤氏は、「『プロセス管理』ではなく『結果の管理』」が重要だと言う。それは次のようなものだ。

最初に「目標設定」をして、ちゃんと仕事を任せる。最後に「結果」を報告してもらい、評価する。その、点と点の管理を身につけましょう。(P.215-216)

 目標設定は必ず、「期限」と具体的な「状態」を提示すること。例えば「1週間後までに3件の契約を成約させてください」といった形だ。できるだけ数値化するのがポイントだという。

 そして、期限が来て、部下から結果を報告されたら安藤広大「できなかったことを指摘する」のが肝心だ。何ができていないかを認識させることがリーダーの役割だからだ。

 このときに「一生懸命さが足りなかった」といった曖昧なことを指摘するのではなく、「客観的事実」を元にしなければならない、と安藤氏は語る。

「週に20件を訪問して3件を成約させたのですね。目標は5件でしたので、未達です。次はどうしますか?」
「来週は40件を訪問するようにします」
「了解です。来週は、40件を訪問して5件の契約を取るのが目標ですね」

と、不足を認識させて、その不足を埋めるために何を改善するのかを同時に提案させ、次の目標を設定します。
未達だった場合は、目標の1つ手前のプロセスを加えることがポイントです。ここでは、訪問件数が目標として加わりました。(P.221)

 また来週報告させ、評価する。そして、達成したら「了解です。お疲れさまです」と受け止める。このときに、「すごいな」などと過剰に褒めすぎないのがポイントになる、とのことだ。

 もちろん、大きな成果を出していたら、大きな評価をしてもいい。大事なのは「あたりまえ」の基準をブレさせないことだと、安藤氏は説明する。

新人リーダーに知ってほしい管理術

 この方法であれば、部下を過剰に褒めたり、途中経過を気にしたりしなくていいので、リーダーはリーダーの仕事に専念できそうだ。

 もし、部下の評価方法に悩んでいるリーダーがいたら、ぜひ試してみてほしい。

 本書は他にも、リーダーが取るべき言動や、リーダーになったら最初にすべきこと、部下との関わり方などについてわかりやすく紹介されている。

 筆者はこの本を読み終わった後、「リーダーをしていた頃に、この本があったらなあ」としみじみ感じたものだ。

「どうにも部下との距離感がうまくはかれない」「リーダーになったものの何からしていいかわからない」という方は、ぜひ手に取ってほしい。

 きっと、あなたの悩みを解決する手段が載っているはずだから。