「凡庸の境界」を越え、「突飛の彼方」に飛び出す
Takram Japan ディレクター/ビジネスデザイナー、PARADE 取締役副社長。Takramではデザイン思考や認知心理学、システム思考を組み合わせた領域横断的なアプローチでエクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を展開。
スローメディア「Lobsterr」の共同創業者、ベンチャーキャピタルMiraiseの投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師(デザイン経営)も務める。
著者・共著書に『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(NewsPicksパブリッシング)、『パーパス 「意義化」する経済とその先』(同)、『いくつもの月曜日』(Lobsterr Publishing)等。 Photo by ASAMI MAKURA
――クリエイティブ・リサーチは具体的にどのように進めるのでしょうか。
私は、(1)問いの定義、(2)探索、(3)分析、(4)構造化、(5)ストーリー化の5ステップで整理しています。探索と分析は一般的なリサーチでもやることですが、前後が大きく違います。最初の「問いの定義」は特に重要です。初手が違えば、発射角が変わりますし、問いが良くなければ、良い答えは得られません。アインシュタインは「問題解決のために1時間使えるとしたら、55分を問題のデザインに費やし、5分間を解決に使うだろう」と語ったとされています。安易に現状からの改善を目的とせず、「本当に解決すべき問いは何か」をしっかり探ることが重要です。
そのためには、目に見える事象の背後に地下水脈のように流れる「インビジブルストーリー(表面には表れていないが重要なストーリー)」を見いだそうとする姿勢が不可欠だと考えています。クレイトン・クリステンセンは『ジョブ理論』で、目立つ「能動的データ」より、ひっそりと目立たない「受動的データ」にこそ着目すべきと指摘しました。ピーター・ティールは『ゼロ・トゥ・ワン』で「賛成する人がほとんどいない、大切な真実」を見つけることが重要と語っています。常識やデータをうのみにせず、「隠れた真実」を探ろうとする。ある種の「あまのじゃく」な精神が大事なのです。
例えば、最近の面白い動きとして、デジタルネイティブなZ世代が、フィルムカメラやガラケー、あるいはレコードなどを好んで使う、という現象があります。ただ「レトロさ」を面白がっているだけにも見えますが、私はこの背後に「ネットワークにつながり続けるのはきつい」「オフグリッド化したい」という時代の空気を読み取っています。これがインビジブルストーリーです。
――こうした視点の転換から新たな問いが生まれていく、と。
次なる探索で大事なのは、適切な領域を掘ることです。メディアで繰り返し紹介されているような既視感のある情報を集めても意味がないし、いくら目新しくても「20××年の未来はこうなる!」式の根拠薄弱な妄想はビジネスに使えません。私がよく使っている表現でいうと、「凡庸の境界」を越え、「突飛の彼方」に飛び出していない領域を深掘りしてこそ意味があるのです。
凡庸の境界を越えるためには、テーマの全容を把握することが必須です。知りたい領域に関して、最低でも調査会社やコンサルティング会社が出しているレポートの類いは片っ端から読む。そうしないと、世の中で既に何が語られ、何が語られていないかが判断できません。ここははっきり言って根性論です。その上で、現場に出掛け、人を見て、話し、1次情報を集めていく。ちょっと調べれば分かることにしかリーチできない人にはもはや付加価値はないし、「凡庸の境界」は越えられません。