感性に訴え掛けるストーリーが事業化の分水嶺

――後半の構造化とストーリー化についてはいかがでしょうか。

 構造化では、集めた情報からパターンを読み取って文脈に位置付けていきます。先ほどのZ世代の例で「写真を撮る」ことの意味を構造化すれば、「記録を残したい」から「イイネが欲しい」、さらには「オフグリッド化したい」というユーザーのモチベーションの変遷を社会状況の中に位置付けることができます。これをさらに自社のビジネスの文脈にも再配置し、ビジネスチャンスを探ります。

 最後の「ストーリー化」は、クリエイティブリサーチならではの部分です。これまでのリサーチなら、データと分析を組み合わせて「ミカンの市場成長率はバナナより4%高い。故にミカンに商機がある」といったアウトプットが一般的でした。ここにデザイン思考的な要素が入ると「一般的にはミカン人気が高いが、自社のユーザー層へのヒアリングでは実はブドウが支持されている」といった話が加わるかもしれません。

 クリエイティブリサーチではさらに踏み込んで、「なぜ自社がブドウに力を入れるべきか、そうすることでどんな価値が生まれるのか」を物語として示します。ここでいかに意思決定者の感性に訴え掛けて、心に刺さるエクスペリエンスを提供できるかが事業化できるか否かの分水嶺になります。

――ビジネスを通すためのアイデアの根拠をつくるだけでなく、目的そのものをクリエイトしていくのですね。

 ただし、リサーチ部門がクリエイティブになるには、多くの会社で組織変革が必要でしょう。リサーチャーに「上から降ってきたお題」をこなす役割しか与えていなければ、プロセスの一部にしかなれません。経営層はリサーチ部門を「ビジネスの方向性の探索者」と位置付けるべきだし、リサーチャー自身にも、それにふさわしいマインドセットとケイパビリティが求められます。日本の場合、クリエイティブリサーチ的な手法が得意なリサーチファームは圧倒的に少なく、この部分を外注するのも簡単ではありませんから、ここは大きな課題だと思います。