高級路線か「一律同額」か
値付けには仕掛けが隠れている

 消費にはハレの消費とケの消費があるとよくいわれます。縁起物の食べ物ですからイベントに乗る消費者の立場でいえば、通常の食費とは別予算で参加するのが恵方巻きの楽しみかもしれません。

 スーパー店頭で恵方巻きの価格を調べると、すしの「並」に相当する安価な普及品が499円(税前、以下同じ)程度、具材が高級な「上」に相当する商品が699~750円という水準です。

 セブン―イレブンの最上級メニューは銀座の久兵衛監修の恵方巻きで、焼き穴子に白身魚のすり身、久兵衛の玉子焼きなどの具材が、久兵衛のあのすこし酸っぱい酢と同じ酢を使用した酢飯で巻かれていて、価格は1050円。恵方巻きにどうせ乗るならセブンの久兵衛まで行っちゃったほうが、ハレの気分は最高潮になるかもしれません。

 ちなみに、恵方巻きのもう一つの欠点は量が多いこと。普段、太巻きを食べるのであれば細切りに切り分けたものを2切れが適量というのが私の感覚です。太巻きだけを食事でとる場合でも、せいぜい4切れ。ところが、恵方巻き1本はその観点でいえば8切れに相当しますからどうしても量が多すぎます。そのため、もし買うのであれば、ハーフがいいというご家庭も多いかもしれません。

 その観点で面白い売り方をしているのが、イオン系列のスーパーのまいばすけっとです。ここでは恵方巻き1本が298円なのですが、面白いことにハーフの恵方巻きも具材がちょっと違うのですが、価格は同じ298円。

 つまり量に対して値段をつけるのではなく、イベントの参加費を一律298円にしているというところが面白い。これは経営学でいうところのバリュープライシングという手法ですが、確かにお祭りの参加料が一律298円だと思うと食べ盛りの人も高齢者の人も、どちらも家庭で恵方巻きを楽しめそうです。

 さて、恵方巻きが嫌いな私の転向のきっかけの話を最後に少しだけ。実は今年、あやうく恵方巻きに手を出しかけました。ちょうど今週、仕事で呼ばれて茨城県では有名な外食チェーンが運営する会席料理店に伺ったのですが、そのお店の料理がおいしかった。それでレジのところにそのお店のクオリティーの恵方巻きが置いてあるわけです。

「いや、これは絶対においしいよな」と思ったのですが、その日はあいにく周囲の目が多かった。

 今さら衆目の前で恵方巻きに手を出すところを見られたくはない。その気持ちが勝ってしまい、その日は恵方巻きを諦めたのでした。

 しかしよく考えてみれば、恵方巻きには何の罪もありません。業界もまじめに更生してビジネスをしているうえに、その中身は意外とおいしそうです。

 丸かぶりの行事にさえ参加しなければ、1本買って帰っても太巻きずしとして家族で分けて味わうことができる。ということで、鈴木家も来年は恵方巻きを解禁してもよいかと思い直したというのが、今回、恵方巻きを改めて調べて記事を書いてみての感想でした。あしからず。