飲み水を制限してマウスを飼育すると臓器の老化がより早く、およそ6カ月──人間でいえば15年分の寿命が縮む。慢性的な軽度の脱水は老化を早めるらしい。人間ではどうだろう。米国立衛生研究所の研究グループは、1980年代から動脈硬化性疾患と生活習慣との関連を調査してきた「ARIC研究」のデータを使い、この仮説を検証している。
対象はARIC研究に登録した45~66歳の成人男女で、肥満や高血糖を除く1万1255人。登録の3年後に行った2度の訪問診療の記録を基に25年間追跡した。
水分補給の目安は血清ナトリウム(Na)値(水分不足で上昇する)で、加齢で発症リスクが上昇する高血圧など八つの慢性疾患の有無、および早期死亡との関連を調べた。訪問診療時の平均血清Na値は、基準値の135~146ミリモル/リットルに収まっていた。
慢性疾患との関連では、血清Na値137~142ミリモル/リットルを1とした場合、血清Na値が142ミリモル/リットルを上回ると、発症リスクが39%上昇。144ミリモル/リットル超で、早期死亡リスクが21%増加した。
さらに、腎機能や呼吸機能など、生理機能の老化を表す15種類の検査値との関連をみると、血清Na値142ミリモル/リットル超で「生物学的な年齢」が、暦上の実年齢を上回る確率が1.5倍に増加した。
研究者は「中高年は血清Na値が142ミリモル/リットルを超えると、老化が早まり、慢性疾患のリスクが増える」としている。
ただし血清Na値が137ミリモル/リットルを下回ると、心不全や全死亡リスクが上昇することも示された。適正な血清Na値は138~142ミリモル/リットルというわけだ。アンチエイジングを狙って、水をがぶ飲みすればいいものではないらしい。
ちなみに、日本の血清Na値の基準は138~145ミリモル/リットル(日本臨床検査標準協議会)だ。
水を飲む習慣はあまり変化しないので、複数回の検査値の平均から自分の飲水量の傾向がわかる。血清Na値が日本の基準値の上限に近い~上回る場合は、水分摂取を少し意識したい。
寒い季節は飲水が減りがちだ。温かい飲み物で適度に一息つこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)