つらい気持ちは「感謝の瞑想」で癒せる

──​『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』では、憂鬱感を払拭する方法として「今持ってるものを数えよう」などが載っています。これも、心を回復させるのに有効でしょうか?

川野:はい、とても大切な心の習慣と言えるでしょう。

「今持ってるものを数える」というのは、実は禅に通じる考え方でもあります。

京都の由緒正しき禅寺、竜安寺の美しいお庭に置かれた「つくばい」にも刻まれていますが、「吾(われ)、唯(ただ)足るを知る」という禅語の実践ですね。

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私も患者さん、あるいはお寺に坐禅をしにいらした方に「感謝の瞑想」をおすすめしています。

頭の中で小さい頃にお世話になった人を想像して、その人にしてもらったことを思い出してもらい、その人の顔を思い浮かべながら目を閉じて、「〇〇してくれてありがとうございました」と心の中で念じてもらいます。

──​「今」ではなくて、昔の思い出なんですね。

川野:そうです。昔の思い出は美化されるので、やりやすいんですね。

いきなり「今に感謝を」と言っても、今は日々が苦しくて、恵まれていると感じられない人は、感謝をすること自体が難しいかもしれません。

まずは、いったん過去に立ち返る。

そうすると過去に色々な人から与えられたものによって今があることに気づける。

過去から現在まで、連続した一直線上に自分がいるので、過去の感謝の気持ちを思い出すと、今感謝できることも見えてきたりするんです。

「そう言えば、こんなこともそもそも感謝だな」というように、昔のいい思い出と紐付けて想起されることが少なくありません。

あとは、自分が使っている物に対する感謝でもいいですよ。──​「物」に感謝ですか!

川野:はい。物でもいいし、自分の体の一部でもいいんです。

キーボードを打って頑張って原稿を書いている、だからこの指に感謝する。

いつも人前にいろいろな表情をつくって仕事をがんばっている、だからこの顔に感謝する。

某お笑い芸人さんのように、「上腕二頭筋に感謝」でもいいですね。

──​筋肉に感謝はおもしろいですね(笑)。

川野:はい。このように日々感謝する習慣を持っていただくことで、自分がいろいろな人、あるいはこの世界から多くの物事を「与えられてきた」ことに心が向くようになり、つらい感情が和らいでいくことが期待されます。

もちろん、生きているかぎり、いろいろなつらさ、苦しさはあるものですが、それを「感謝で置き換えていく」イメージですね。

この本には、憂鬱感を払拭するような方法が多数紹介されているので、ぜひご一読の上、ご自身に取り入れやすい手法を実践していただきたいと思います。

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。またビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代などを対象に幅広く講演活動を行なっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。