「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。本書の原著である『フロイトの椅子』は韓国の人気女性アイドルグループ・少女時代のソヒョン氏も愛読しているベストセラー。ソヒョン氏は「難しすぎないので、いつもそばに置いて読みながら心をコントロールしています」と推薦の言葉を寄せている。精神科医で禅僧の川野泰周氏も「著者のチョン・ドオンさんのような分析家の先生だったら、誰でも話を聞いてほしいだろうなと思います」と語る。読者に寄り添い、あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は川野氏に本書のおすすめポイントを聞いた。

【精神科医が語る】「もう限界…」疲れはてた人が気力を取り戻す簡単な方法とは?Photo: Adobe Stock

心を守るために体に症状が出ることも

──​『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』では、自分を守ろうとする心の動きである、「防衛機制」を取り上げています。自分の仕事や学校がつらくなると、急に頭痛がしたり、お腹が痛くなったりすることがあります。これも「防衛機制」の一種なのでしょうか?

川野泰周(以下、川野):はい。これは、「身体化」と言って、「防衛機制」の中でも、「未熟な防衛機制」のうちの1つです。

──​「未熟な防衛機制」ですか。

川野:はい。「未熟な防衛機制」はこの本の中にも取り上げられていますが、防衛機制の中でも、幼少期から思春期にかけてよく見られます。

成人でも出現しますが、社会生活を送る中で未熟な防衛機制が頻発してしまうと人間関係はもちろんのこと、生活全般にわたって生きづらさを感じてしまう可能性があります。

「身体化」以外にも、衝動的な行動を取ってしまう「行動化」、相手を自分の願いをすべて叶えてくれるようなすばらしい人物だと捉える「理想化」などは、防衛機制の中でも未熟なタイプとして知られています。

「身体化」の場合、周りから「毎日腹痛だなんて、仮病ではないか」と勘違いされることもあるのですが、本人は本当に痛みを感じています。自律神経が乱れて体の症状になってしまうという現象なんです。

──​心を守るために体の症状として出てしまうんですね。

川野:はい。「身体化」してしまう人は、ご本人の心の制御力は本当は高いんです。身体面の症状としてほころびが出てくるまで、心では我慢しているわけです。

症状が体に出やすい人は、内科や外科といった身体疾患を専門とする医療機関を受診することを繰り返しますが、検査をしても原因が見つからないため、「自律神経の問題かもしれませんね」と言われることが少なくありません。そして自律神経が乱れる原因は、心の問題、葛藤の問題だったりする。

それなのに、自らの心に生じているストレスが問題だということに気づけていない人が多いと感じます。

この状態が極端に繰り返される場合、「アレキシサイミア」という、自分の心を言葉にできなくなって、感情を失ったかのように見える状態に陥る人もいます。