「生きている意味がない…」と感じたときはどうすればいい?
──感情を失ってしまうと、「自分は生きている意味がない」とまで思いつめてしまう人もいます。このような状態からどのように脱すればいいでしょうか。
川野:「自分には生きている価値がない」と思うのは「希死念慮」といって、うつ状態が重度になっている方によく見られる症状です。
そこには自責の念や、罪業妄想、微小妄想といった症状が加わっていることもあります。
罪業妄想とは「自分は人に対して悪いことをしてしまった。罰せられるべきだ」と思い込んでしまうというものです。
微小妄想というのは、「自分なんかちっぽけな人間だ」といった具合に、自らの存在価値を過小評価してしまう状態です。
こうした症状が出現している場合には、その人は深刻なうつ状態に陥ってしまっている可能性を考えなければなりません。
本当に追い込まれて疲れ切っている人は心のエネルギーが枯渇しているといっても過言ではないので、自分を見つめ直す、といったことはいったん置いておいて、まずはゆっくり休むことが重要です。
──ゆっくり休養を取るのが大切ということですね。
川野:はい。まずは休むこと。そこからがスタートです。
昨今注目されている「ニクセン(Niksen)」という言葉があるのですが、何もしないでボーっとする時間を過ごすことを指しています。
オランダではこうした時間を持つことがメンタルヘルスのために大変重要だと認識されるようになっています。
オランダ国内では、休日や夕方になると町のいたるところで、公園の芝生の上でゴロゴロ過ごすなどして、ニクセンしている人を見かけるのだそうです。
──「ニクセン」ですか。
川野:はい。意識を向けないでただ雲を眺めてぼんやり考える、焚火や山を見つめる。雲を見ながら何の形をしてるかなって想像するとか、焚火を見ながらその火のパチパチと火の粉がはじけるのをただ見ている。そんな時間の過ごし方です。
──疲れ切ってる方は、何もしないでボーっとするところから始めるのがいいかもしれないですね。
川野:そうなんです。心も体も疲れ切ってしまっている患者さんを診療する中で、そう強く思うようになりました。
そして、そんなゆったりとした時間を過ごす中で少しずつ活力が戻ってきた際には、五感に意図的に注意を向けるマインドフルな時間の過ごし方を取り入れていただければと思います。