「ランドログ」で
エコシステムを構築する
北川 『ビヨンド・デジタル』の中では、企業変革の必須要件として7つの項目を挙げていますが、そのひとつに「エコシステムを作り上げること」があります。そして、その先進的な事例として、御社が立ち上げたオープンプラットフォーム「ランドログ」を取り上げています。スマートコンストラクションを推進していくに当たって、エコシステムという発想はどこから出てきたのでしょうか?
四家 Komtrax(コムトラックス)という、コマツ独自の建設機械のIoTサービスがあります。これは、建設機械に双方向の通信設備を搭載することで、遠隔からでも建機の稼働情報確認やエンジンロック操作を行えるもので、現在、全世界で稼働している約68万台(22年5月末時点)のコマツ製品に装備されています。世間的には、Komtraxは建設機械のデジタル化の成功事例として紹介していただくことが多いのですが、実は我々にとっては反面教師的な面もあるのです。
Komtraxは、建設生産現場にあるコマツの建機が、コマツのアプリケーションによって、コマツのサーバーとつながっている、言うなれば垂直型のシステムです。同じ現場で稼働している他社の建機のことはわからない閉鎖的な仕組みであるため、プロセス全体の最適化には不向きでした。現在は、海外現地法人や代理店が、容易に自前のアプリケーションにKomtraxデータを活用することが可能な新たなKomtraxに進化していますが、従来はKomtraxのデータを使ってほかのアプリケーションを作りたくても実現が難しかった。
そこで新しく始めたスマートコントラクションやランドログでは、コマツの建機だけではなく、建設生産現場にあるすべての機械、材料、人などをつないで巨大なシステム、すなわちエコシステムを作り上げることを目指したのです。
北川 クローズドなシステムではなく、もっとオープンなものにしていこう、と。
四家 そうです。ただし、オープンなシステムにおいて、最もコアなところは自分たちで持たなければ、という意識も強くありました。それこそが、プロセス全体を可視化して課題を発見するためのアプリケーションであり、それは我々が独自に開発してソリューションに組み込んでいます。
北川 オープンなプラットフォームにおいては、顧客の都合や要望次第では、コマツ以外の建機を使用する状況もあり得ます。そうなると、コマツ社内のほかの部門とのコンフリクトが生じてしまうおそれもありますが、実際のところはどうなのでしょう?
四家 発生し得るコンフリクトについても、社内で議論がありました。例えば、建設生産活動を可視化するには、すべての機械をデジタル化しなければなりません。とはいえ、現場で稼働している建機をすべて、ICTに対応した最新のものに買い替えてもらうわけにはいかないので、既存の建機に後付けできる安価なキットを開発して販売しました。それに対して、「そんな安いキットを売ったら、新しい建設機械を買ってもらえなくなるじゃないか」という声が上がったりしました。また、我々はお客様の生産性向上を目指しているのですが、「生産性が上がったら、建設機械の必要台数が減るから、売れなくなる」という意見が出たこともあります。
新しいことをやるときには、必ず利害の衝突が生じます。ただ、当社の場合、経営トップである社長が「そうした話はしない」と決めて、動きはじめたことで、その影響は最小限に抑えられていると思います。また、我々がやらなかったとしても、近い将来、誰かが建設生産活動を効率化するアプリケーションを作り、その結果として使用される建機の数が縮小していくかもしれません。「だったら、いち早く自分たちでやっていこう」「自分たち自身で、破壊的なイノベーションも起こしていこう」というメッセージも、社長が繰り返し発していました。