「モノ売り」と「コト売り」の
親和性を高める
北川 コマツは、これまで日本を代表する建設機械メーカーとして「モノ売り」をビジネスとしてきましたが、スマートコンストラクションによって「コト売り」への変革を成し遂げました。「モノ売り」と「コト売り」は対極にある考え方だと思うのですが、社内で変革を推進していく中でさまざまな壁に直面することも多かったのではないですか?
四家 おっしゃる通り、「モノ売り」と「コト売り」は、ビジネスとしてまったく異なります。例えば、モノ(製品)は工場を出荷する際には価値ができあがっており、お客様に納品した段階で価値の移転が行われます。一方、コトの場合は、製品がお客様のもとに届き、実際に使いはじめてから、価値の創造が始まります。つまり、モノの終点が、コトにとっては起点になるわけです。
また、モノの場合は使いはじめたときが最高の価値で、そこから5年、10年と使い続ける中で価値が減少していき、やがて新しい製品に買い替えることになります。ところが、コトの場合は、最小の価値からスタートして、使い続けていただくことで価値を増大させることができます。
このようにモノとコトは何もかもが違っていて、我々も当初から「モノ売り(作り)の延長にコト売り(作り)はない」と考え、両者を別々なものとして並列的に考えてきました。
北川 四家さんご自身は、以前に建設機械のレンタル事業に携わられていたこともあり、顧客目線でコト売りに移行するのは比較的スムーズだったのではないかと思います。とはいえ、会社全体で見れば、やはりモノ売りからコト売りへの意識改革は大変だったのでは?
四家 モノとコトが対極にあるとはいえ、モノを否定してコトに移行するわけではないので、コマツが100年間守り続けてきたモノ作りへの姿勢はこれからも大切にしていきます。一方で、製品を通じてお客様の生産性を向上させていくというコト作りは、これまでの我々になかったビジネスモデルです。ですので、まずはしっかりとモノとコトの本質を理解したうえで、互いを対立させるのではなく、どうすればそれぞれの強みを生かし、両立させることができるか、という考え方を社内に浸透させていきました。
例えば、モノ作りに携わる人は、コト作りとの親和性の高いモノ(製品)を生み出していく。片やコト側の社員は、モノ作りのノウハウをコト作りに生かしていく。実際、お客様の生産工程をシミュレーションするシステムのアルゴリズムは、お客様の施工現場を自分たちの生産現場と捉えて、生産技術の社員が自社で培ってきたノウハウを使って作っています。
北川 世の中では「モノ売りからコト売りへのシフト」などと言われていますが、御社ではモノ売りとコト売りのそれぞれ守るべきところは守り、両者の親和性を保ちながら変革を進めてきたことが、成功の要因のひとつになっているわけですね。