その選挙は、大抵、年が明けてすぐからその年の春節(旧正月)前後までの間、中国各地でばらばらと行われる。冒頭に引用した先月の新華社記事が伝える通り、習近平は1月19日に江蘇省で無事に人民代表に選出された。

 だが、筆者はその報道に何か引っかかるものを感じた。5年前の選挙の時、習近平の「地元」は江蘇省だったっけ……?

 調べてみると、5年前の2018年、習近平は内モンゴル自治区で人民代表に選ばれていた。その時の報道にも、満票で当選し、議場には「雷鳴のような拍手が会場に鳴り響いた」とある。習はその前の2013年にもやはり内モンゴル自治区で人民代表に選出されていた。

習近平の「地元」は
江蘇省でも内モンゴルでもない

 なぜそのことが記憶の片隅に残っていたかというと、習の経歴と内モンゴル自治区が結び付かなかったからだ。習自身は、父が中国共産党の建国時の長老だったから北京生まれだし、父親は陝西省で生まれ育った。その祖先をたどると河南省の出身だそうでこれまた内モンゴルとは縁がない。そして今回人民代表に選出された江蘇省とも、習は少なくともその経歴上は無関係だ。

 過去の指導者の場合、そんな違和感を覚えたことはなかった。前任の胡錦濤は安徽省出身で、同省あるいは赴任先だった江蘇省やチベット自治区で人民代表に選出されている。その前任者の江沢民も、やはり自身の出身地である江蘇省や長く暮らしていた上海市がその選出母体になっていた。習近平もかつて上海市の共産党書記を務めたことがあり、上海市から人民代表に選出されたことがある。

 江沢民や胡錦濤の時代は、その選出母体は間違いなく彼ら自身とゆかりのある地域だったはずだが、なぜ習近平が実権を握るようになってから内モンゴルや江蘇省からの立候補になっているのだろうか?