中国ブランド台頭で「爆買い」下火
訪日目的が変化する兆しも
パトリックさんは東京都北区赤羽の100円ショップに駆け込み、ここでもまた1万円を超える散財をした。一番大きいレジ袋はたちまちプラスチック製品や布製品でパンパンになった。「こんないいものがこんな値段で買える、これこそ日本が誇れる価値だ」――と言いながら、2時間も店舗から出てこなかった。
他方、中国人の間でも日本製品はすでに生活の定番となり、一つの製品を使い続けるリピーターさえ出てきている。とはいえ、以前のような“爆買い”は考えにくくなった。中国でも品質、デザインともに優れた製品を生産することができるようになり、自国ブランドに自信を持つようになったためだ。20代の新世代は「資生堂」などの日本ブランドを「お母さんが使っていた昔のブランド」だと思っている。
気になるのは、若い世代は温泉文化に強い興味を持っていないのではないか、ということだ。筆者は年間通じて延べ3桁に及ぶ数の外国人留学生と接しているが、「日本の温泉に行きたい」というコメントをほとんど聞かなくなった。欧米在住のパトリックさんのような若い友人たちも同じで、「知らない人の前で服を脱ぐのはどうも…」と消極的だった。世代交代の進行とともに、淘汰されていく日本の価値もあるのかもしれない。
中国からの訪日客は現在、商用目的などで数次有効のビザ保持といった限定的な範囲にとどまっている。そのためなのか、都内在住の中国籍の王さん(仮名)によれば「中国から訪日した友人が示すのは、日本への関心は投資がらみの話が多く、純粋に観光を楽しもうという人は少ない」という。
彼女は訪日旅行に来た香港、台湾、シンガポールの友人たちを東京タワーと銀座に案内したが、「観光はそれで終わりで、あとは食事と商談」だと話していた。日本の観光にときめく層はすでに一巡してしまったのだろうか。
中国の将来を案じ、過去に訪れた日本に避難しようという中国人も少なくない。こうした人たちは長期在留資格を取得するための情報収集に余念がなく、日本での足掛かりの模索に必死だ。中国からは「旅行」という形での訪問以上に、今後は「投資」と「定住」を見据えた移動が本格化する気配だ。