複数の人たちの間で脳活動の時間的なゆらぎのリズムが揃っている状態を、「脳活動が同期している」といいます。東北大学加齢医学研究所ではこれまで、日常生活の様々な場面における脳活動の同期現象を計測してきました。私も2017年から「脳活動の同期とコミュニケーションの質の関係」を明らかにするための実験に取り組んでいました。そちらを応用して、コミュニケーションの手段を対面での会話からビデオ通話での会話に切り替えて行ったのが今回の緊急実験です。
東北大学の学生さんにご協力いただき、同性で初対面の5人を1グループとして3グループ作り、指定した話題について5分間、自由に会話をしてもらいました。ただし、オンライン・コミュニケーションの条件では、パーティションで区切られたデスクを用意し別々の方向を見て座っていただき、ビデオ通話で会話(以下、オンライン会話)をしてもらいました。実際の実験の様子が冒頭の【写真1】です。
実験の結果から、オンラインでは、脳活動が同期していないことがわかりました。驚くべきことに、オンライン会話をしているときの脳は、ひとりでボーッとしながら何も考えていないときと同じ状態だったのです。すなわち、オンライン会話は、脳にとっては正常なコミュニケーションになっていないといえます。
正直に申し上げると、実際に実験を行なった私でも、この結果は想定外のものでした。私の仮説は、「対面での会話と比べて、オンライン会話の方が脳活動の同期の程度が低い」というものでした。ビデオ通話を使用しているとはいえ、人と人とがお互いに顔を見ながら話すというのは対面と同じです。画面越しだろうが、誰かと話せば少なからず脳活動は同期するだろうと考えていました。
しかし、実験の結果を解析してみて愕然としました。まさか、何もしないでボーッとしているときと変わらないとは思いませんでした。オンラインに頼ることが当たり前になりつつある「新しい生活様式」は、私たちが想像しているよりも遥かに危険なものなのかもしれません。