黒い看板の吉野家の出店割合
「全体の15%」は黄金比

 次に、ビジネスモデル上非常に重要だと思われるのが、黒い看板のクッキング&コンフォート店舗は店舗全体の15%しか存在しないという点です。

 実はオレンジの看板の吉野家の店舗には、一般の外食チェーンには見られないある優位性が存在します。それが顧客回転率の高さです。

 よく普通の吉野家の店舗を見て、一般の飲食店経営者が「いつもがらがらで集客できていないんじゃないか」と感想をもらすことがあります。

 吉野家のお店はランチタイムのピーク以外は待たされることはほとんどなく、いつ行っても座れるのが特徴なのですが、だからといって顧客数が少ないわけではありません。例えば同じカウンター数でも人気のラーメン店と比べて、吉野家の来店客数のほうが圧倒的に多かったりします。

 その理由が回転率です。ラーメン店との違いを挙げると、吉野家では注文をして1分で牛丼が到着します。おいしく食べてお勘定をして、だいたい5~6分で退店します。ランチのピーク時では1時間で何回転もするのが特徴で、一日平均で見ても吉野家は実に60回転するといわれています。

 そこで居心地のいい黒い看板の吉野家ですが、こちらは女性客や学生のような若い顧客を集めて長居させる業態です。学生からしてみれば座席にコンセントがあってPCでレポートを書きながら飲食ができる。ドリンクバーもありますから、女性客ふたりで恋バナでもしながら食後もずっと居続けることもできるわけです。

 ここに「全体の15%」という数字が意味を持ってきます。あくまで黒い看板の吉野家は新しい顧客層を取り込むための装置だと考えるとこの戦略の全体像が見えてきます。顧客層を増やすことが戦略目的なので、なるべく居心地をよくすることは大切です。

 しかし全店でそれをやってしまうと吉野家最大の武器である「一日60回転するビジネスモデル」が無効化してしまいます。

 そこで生まれたのがこの15%という黄金比でしょう。例えば、黒い吉野家をきっかけに、吉野家のメニューのファンになった新規客が、その後、オレンジの看板の吉野家にも訪れたとしましょう。お気に入りの「お牛丼(ON野菜なし)」を食するのですが、そのときには他のお客様と同じように「うまい、安い、早い」を堪能して早くお帰りいただいたほうがビジネスモデル的にはよいのです。