「仕事時間の4割が人を動かすことに使われている」。そう聞くとコミュニケーションが苦手な人はため息が出るかもしれません。でもそんな人でも「しくみ」をつかえば他人を動かすことはできる。そう話すのが『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』の著者、高橋浩一さんです。
本連載では著者の高橋さんが伝え方に関するみなさんの「具体的な悩み」に回答。すぐに役立ち、一生使える方法を紹介します。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。高橋さんのマシュマロはこちら。
[質問]
上司に意見を言うとき、丁寧に伝えたつもりでも「噛みつかれた」と受け取られることがあります。意見を伝えるときは、伝え方より関係性の方が大切でしょうか。
[回答]
噛みつかれたと受け取られるときは、関係性に原因があることもありますが、実は「伝え方」で地雷を踏んでいるケースが多くあります。
自分に攻撃の意図がなくとも、相手が身の危険を本能的に感じているのです。
自分の言葉が、相手から反射的に「危険」と判断され、ガードされてしまうのは、自分の言葉が「相手の脳(古い脳)とケンカ」している状態です。
古い脳とは?
古い脳(大脳辺縁系など)
「本能」をつかさどる脳の部位。「心地いい」「不快」「怖い」など、原始的な感情をつかさどる。古い脳はヒト以外のほ乳類でも同じように機能します。動物は身の危険を感じるととっさに反応して逃げますが、ヒトも同じように、たとえば赤の他人がいきなり自分の隣に座ると落ち着かないのは、安全でいるために身を守ろうと、古い脳が働くためです。
上司が「警戒モード」に入るのを防ぐ
いきなり「部長、提案があります!」と斬り込まれたら、部長としては「むむっ! 提案? いったいどんなことだ」と、「古い脳」が警戒モードに入ります。
その状態で、
「われわれの部の業務はムダが多くて非効率。なのでご相談なのですが」
などと続けられたら、部長は責められている気分になり、「身の危険」を感じてさらに身構えてしまいます。
いったんこうなってしまったら、後に続く言葉が正論でもやすやすとは認められません。
「結論から伝える」にはリスクもある
ビジネスの場面ではよく「簡潔に、結論から伝えなさい」と言われます。
でも、上司に意見をする場面で、いきなり「結論から言うと、当社は非効率です。だから改善のために○○をしてください」などと言ってしまえば、相手の「古い脳」に警戒され、感情的に反対されてしまいます。
そこで僕が提案するのは、会話の頭に「枕詞」をそえるやり方です。
古い脳のブロックを防ぐ
もちろん、直球で伝えても相手が動いてくれると確信できるなら問題ありません。
しかしそのまま伝えると、反対や躊躇をされる心配があるときは、相手の「古い脳」にブロックされないよう、「冒頭にそえる枕詞」を工夫するのがおすすめです。
たとえば上司に提案するときも、「一つご相談があります。お力をお借りしたいのですが」という枕詞で切り出せば、上司の古い脳が警戒モードに入るのを防げます。
このように一言そえてから本題に入ると、相手は心の準備をしやすくなりますし、こころよく聞く耳をもってもらえます。
※この本にはこうしたメソッドがほかにも数多く収録されています