2022年は、興行成績4000万香港ドル以上の
大ヒット作が4本も

 その活況ぶりは数字にも表れている。昨年は興行成績が4000万香港ドル(約6億8700万円)を超える香港産映画が、過去最高の4本誕生した。うち1本はやはり黄子華さん主演のコメディー、そして中国との共同出資によるSF大作、超人気アイドルグループ「MIRROR」(ミラー)のメンバーが主演する作品、実際に起きた猟奇的な事件をテーマにしたシリアス法廷劇……となっており、ジャンルもなかなかバラエティーに富んでいる。

 さらに、中国の出資を受けたSF作品以外はそのテーマがすべて「香港」であることも見逃せない。ここに上げた他にも、「小市民」と人々が呼ぶ、庶民の生活を描く作品群がさまざまに注目されたことも昨年の特徴だった。

 3月10日から始まる大阪アジアン映画祭ではそんな昨年の話題作5本が上映される。大ヒット中の「毒舌大状」はさすがに間に合わなかったものの、上映予定作品はすべて今年4月に発表される予定の香港アカデミー賞にノミネートされるほどの話題作で、それを日本語字幕で見ることができる貴重なチャンスとなっている。最新の香港映画事情を理解するのにぴったりなので、興味がある方はぜひ同映画祭のWebサイトで詳細を確認していただきたい。

ベルリン映画祭で
香港人著名監督が驚きの発言

 ……などと書いていたら、現在開催中のベルリン映画祭から大きな話題が飛び込んできた。

 同映画祭では今年、オープニングセレモニーでウクライナのゼレンスキー大統領がビデオ挨拶をし、ロシアによる同国文化への侵略に触れ、芸術や文化の世界は必ず邪悪な勢力に抵抗していかなければならないとスピーチを行った。それに続いてコンペティション部門の審査員たちによる記者会見が行われた。

 そこで出席していた記者から、「コロナの期間中、この映画祭も開かれず、わたしの上司は『映画は死んだ』とまで言った。でも、死んでいなかった。大きなスクリーンでまた映画が見られるようになった。映画がなぜそれほど特殊なのか、なぜ映画は死なないのか、教えてほしい」という質問が出た。それに真っ先に拍手をしてみせたのが審査員の一員で、「香港ノワール」の代表者として知られるジョニー・トー(杜琪峯)監督だった。その拍手のおかげで審査員を代表して返答を求められた同監督は広東語でこう答えた。

「映画は常に時代の先駆者だ。全体主義によって人々の自由が奪われるとき、映画は真っ先にその矢面に立たされる。(権力者は)まずその文化を押さえ込もうとする。どこでもそうだ。映画は観客の中に入っていく文化だから、独裁者はまず映画を手中に収めようとするのだ。香港……いや、失礼……世界中で自由を求める国々と人々は、まずは映画を支持してほしい。それはあなたのために声を上げるものだからだ」

 これは、ゼレンスキー大統領のスピーチに続く、そして今の欧米諸国のムードにおいては至極当然な納得できる内容だったといえるだろう。会場からは拍手も起きた。