中国が反応すれば
逆効果になる?

 だが、香港では「トー監督が今の香港が置かれた事情を批判的に語った」と大騒ぎになった。彼が一瞬「香港」と口にしたからだ。ベルリンの英語通訳はそこをスルーし、単純に「世界」とだけ伝えていた。

 すぐに中国国内のSNSに開設された同監督のBOTアカウントがブロックされたとの情報も駆け巡った。中国でも人気の高い同監督が「公然と中国への抵抗を口にした」ことで、今後の処遇を心配する声も上がり始めている。

 記者会見の動画を確認したところ、同監督の発言は意図的というより、母語である広東語で習慣的にするりと「香港」が口を突いて出たようにも見える。ただ大騒ぎになった後も監督の側からは特にコメントは出ておらず、また現時点では中国の検索サイトでも同監督関連の情報は普通に検索でき、表面上は前述のBOTアカウント以外の異変は起きていない。一部からは「ここで中国が過剰反応を見せれば、自分たちが香港映画を押さえ付けていると認めたようなもの」という声も起きている。

 一方、この騒ぎで、同監督がかつて中国メディアのインタビューで自作品の中国市場のために改変したバージョンを、「一切見ない。見ると気持ちが悪くなるから」と述べたという記事も再掲されている。現実に同監督作品はすべて中国国内で公開されているわけではなく、監督側はそれでも中国国内での上映をすべて拒絶するつもりはないという姿勢らしい。

「映画はあなたのために声を上げるもの」。だとすると、これから香港映画はどんな声を上げるのだろうか。非常に楽しみになってきた。