経済学者や経営学者、エコノミスト138人が選んだ経済、経営に関わる良書をランキング形式でお届けする特集『ベスト経済書・ビジネス書大賞2022』(全8回)。#4では、3位の『経済社会の学び方 健全な懐疑の目を養う』の著者、猪木武徳・大阪大学名誉教授に、経済社会を学ぶにあたっての“健全な懐疑”の大切さについて語ってもらった。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
「本当に正しいのか」と
常に問い続ける
経済理論はどの変数を選ぶか、どういう概念に基づいているかによって結論が変わる。
リカードの比較生産費説は「それぞれの国が、生産費において他の国に対し比較優位にある生産物を多く生産し、輸出することが、それぞれの国にとって利益になる」という、貿易に関する理論だ。
ただ、この理論の前提には、それぞれの国で比較劣位にある生産物の熟練工や設備を、比較優位にある生産物の熟練工や設備に早変わりさせることができるということがある。
それによって、生産を集中させることができる。しかし、実際には、早変わりさせることはそれほど容易なことではない。
加えて、現代であれば、ある製品の生産に必要な設備群やサプライチェーンは多くの国にまたがっている。こうした事態はリカードの理論において想定されていない。
理論は、複雑な経済社会の動きを単純化して説明している。それ故、経済学を研究する者は結論を過信してはならず、謙虚さを持ち、現実のデータや統計に触れつつ「本当に正しいのか」と常に問い続ける「健全な懐疑」の姿勢が必要だ。