地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。著者ヘンリー・ジーが熊本大学で行った特別講義を連載でお届けする。(翻訳/竹内薫)
ネイチャーの22人の編集者
ネイチャーの生物学の編集者は22人います。その中には神経生物学のチームもあれば、分子生物学のチームもあり、細胞生物学のチームもあります。進化生物学をやっている人はあまりいないので、私は1人チームです。
しかし、私は古生物学だけでなく、あらゆる種類のものを見て共同作業を行っています。微生物学、分子遺伝学、ゲノミクスなど、私が精通していない技術や手法、種類の学問が関わってくるからです。ですから、私は、気候変動、生態学、遺伝学、微生物学などの専門知識を持つ数人の同僚と密接に仕事をしています。
同僚がやってくれる便利なことの1つは、私がその分野について充分な知識がないために判断できない場合、その論文が査読に値するかどうかを教えてくれることです。
生物学のチームには、分子生物学や神経生物学のグループもありますし、物理科学のチームもあります。地質学や気候変動、宇宙物理学、量子力学、力学など、物理科学のチームと一緒に仕事をすることがよくあります。
「切り口」を探している
このように、私たちは分野を超えて仕事をしています。
そして、ネイチャー誌が奨励するのは、分野を超えた論文なのです。私たちは「切り口」を探しているのです。人々を興奮させるような大きなものを探しています。今、私たちはたくさんの会議、会議、会議、会議をしています。
編集者が他の編集者の前で受理した論文について議論し、一般読者向けに誰に解説を書いてもらうかどうかを判断します。また、論文の査読をするかどうか決めかねているときは、あらゆる科学分野の同僚が集まる場で、自分がこの論文をどのように発表するかを想像してみるのです。
名編集長の言葉
みんなをワクワクさせることができるだろうか?
みんなを惹きつけることができるだろうか?
これは、私がネイチャー誌に入社したばかりの頃、当時のネイチャー誌編集長で、私の師匠でもあり、私を雇ってくれた故ジョン・マドックスから学んだものです。
彼はあらゆることについて何でも知っていました。若い編集者だった私は、会議である論文を掲載することを推薦しましたが、あまりうまくいかず、彼に「なぜ、こんな論文を掲載するんだ」と訊かれたのを覚えています。地球が私を小さな穴の中に飲み込んでしまえばいいのに。そのように恥じ入ったものです。
ですから、原稿に疑問があるときはいつも、「なぜこれを出版するのか?」と自問自答しています。そして、大抵はそれで納得してボツにします。
※本原稿は、2022/9/2に熊本大学国際先端医学研究機構で開催された第19回「SCIENCE and ME」の著者講演を元に、再編集、記事化したものです。
協力:熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey